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分子性機能物質科学の国際教育研究拠点形成 【名古屋大学グローバルCOEプログラム】

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名古屋大学 大学院理学研究科 物質理学専攻(化学系) グローバルCOE事務局
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拠点リーダー・教授  渡辺 芳人
名古屋大学 大学院理学研究科



はじめに
化学は、物質世界への深い洞察と実験的試行を繰り返すことによって、脈々と築き上げられてきた基幹学問であり、常に物質科学研究のフロンティアです。さらに、物理学や生命科学と連携して研究分野を拡大創出し、現代社会の発展を支える機能性物質を生み出し続けています。21 世紀初頭を迎えた現在、この潮流はますます大きなものとなりつつありますが、その発展は地球環境との調和や社会倫理との整合性の上に立ち、グローバルなものでなければなりません。また、このような化学の発展を牽引し得る「人材」の育成こそが、緊急の課題となっています。
こうした認識のもと、本拠点では、
- 分子性物質科学における新たな研究の潮流を作りだす
- 分子性物質科学における国際的なリーダーを育てる
- 国際的に開かれた教育・研究環境の醸成
の3つを目標とし、「名古屋から世界へ、世界から名古屋へ」をキーワードに、国際的な化学研究ネットワークのハブ拠点を確立することを目指しています。

名古屋大学における化学研究と教育
2001年の野依良治教授、2008年の下村脩博士のノーベル化学賞受賞に代表されるように、名古屋大学の化学分野は、長年にわたり世界に冠たる研究成果を生み出してきました。
本拠点の基盤となる理学研究科物質理学専攻(化学系)は、1995年から実施された「中核的拠点形成(Center of Excellence = COE)プログラム」に全国で唯一の化学分野の拠点として選ばれ、その実績により、1998年に「物質科学国際研究センター」が発足しました。さらに2000年には物質理学専攻が「教育研究拠点形成支援経費(教育COE)」に採択され、図書の充実や修士課程の教育体制整備など、大学院教育の充実が図られました。2002年からは21世紀COEプログラム「物質科学の拠点形成:分子機能の解明と創造」 を実施し、成果をあげています。一方、工学研究科化学・生物工学専攻(応用化学分野)は、21世紀COEプログラム「自然に学ぶ材料プロセッシングの創成」の研究テーマ「階層構造制御プロセス」で主要な役割を果たしてきました。
さらに2005 年からミュンスター大学と博士課程学生の共同指導を行う連携事業を開始し、博士課程学生の派遣と受入れを実施するなど、国際的な教育研究拠点として機能し始めています。

研究の4つの柱
これからの時代を切り拓く化学の方向性や、対象とすべき分野の広がりや境界領域を模索する中で、環境への負荷を低減するグリーンケミストリー、化学の視点から生命科学に迫るケミカルバイオロジー、フラーレン等のナノ構造体を創り、活かすナノサイエンス等の重要性がますます増大してきています。本拠点のスタッフはこれらの分野の研究を先取りし、完全化学反応を達成する分子触媒の開発、超炭素鎖生理活性物質の探索、有機金属酵素の設計、二層カーボンナノチューブの発見と応用、光学活性高分子らせん構造体の合成、有機エレクトロニクス材料の開発等の成果を上げ、物質科学の研究において世界を先導してきました。
本拠点では、新規物質機能の創出と生命機能の理解・設計を中心的命題とし、以下の4つの研究チームがそれぞれの達成目標を設定し研究を推進しています。さらにチーム間の共同研究を推進し、分野間融合により、 分子性物質科学における新たな研究の潮流を作り出しています。
(1) 物質化学と生命化学の基盤としての物質創製を支え、環境負荷を抑え、有機および無機化合物、有機金属化合物などを自在に合成し、新たな価値を生み出す精密を究める合成化学。
(2) 高分子や超分子、有機−無機複合高次系の構築など、機能分子から生体分子まで自在に操り、一次構造制御、階層的自己組織化などにより究極の物性・機能を創出する高分子科学。
(3) フラーレン、カーボンナノチューブなど、ナノサイズの新規物質の創造と機能設計をめざすナノ分子科学。精密電子構造解析によって物質機能の根源を明らかにした上で、ナノチューブや電子機能性分子などを素材にした分子エレクトロニクスの化学を発展させる。
(4) 生理活性天然物の作用機序の解明、タンパク質の一生を司る輸送現象と機能化、人工酵素の設計など、生命現象の複雑性に斬り込むための化学の視点を貫く生命科学。

図1 図1


人材育成・教育
次世代の研究リーダーには、高度な専門知識と関連分野の幅広い基礎知識の修得、未踏の領域や学際分野に対して専門知識を活用・応用する能力、高い倫理観と社会性等が求められます。そのため、「社会性」、「自立性」、「国際性」に重点を置いた教育研究によって、分子性機能物質科学における国際的リーダーとなる、以下の人材の育成を目指します。
(1) 物質科学の高度な専門知識とともに、周辺の物理学や生命科学の十分な基礎的知識を有し、これらの専門知識の活用と応用により、新しい研究分野を切り拓くことができる人材。
(2) 国際的な学術研究活動に不可欠なコミュニケーション能力と自立性を身につけ、合議と協調をもとにリーダーとして研究グループや研究分野を統括・先導できる人材。
(3) 地球環境との調和や社会倫理との整合性を意識し、自らの学術研究活動について、人類社会における位置づけや影響を的確に把握し、社会に発信できる人材。

これらの教育を実践するために以下のようなプログラムや支援体制を整えています。
多様なセミナー
柔軟な発想や高い社会性の涵養を目指した特徴的で多彩なセミナーを実施(専門領域のセミナー/異分野のセミナー/セミナー「社会と科学」/キャリアパスセミナー/実践英会話教室)
リサーチプロポーザル
院生が自らのアイデアを実践できる「若手自立的研究」の設置、そのグラントへの応募
若手研究会
院生・ポスドク・助教が計画する研究会、シンポジウム

また本拠点では、理学研究科と工学研究科の連携により、低分子から高分子、ナノ物質から生体関連物質におよぶ総合的な分子機能研究が可能となり、より総合的かつ統一的な化学教育を行うことによって“高い専門性”と“広い視野”を持つ研究者を育成します。

国際化の取り組み
化学研究ネットワークのハブ拠点として機能するには、国際的に開かれた教育・研究環境が必要であり、国際交流のためのコミュニケーション技術の向上、優秀な外国人大学院生の留学支援、英語による授業、英語リテラシー教育の整備、海外の大学院との連携、外国人教員の採用などを通じて、国際性の高い大学院教育の実現を目指しています。

国際的研究ネットワークにおけるハブ拠点の形成
- 研究者招聘と派遣
広い分野の一流外国人研究者を短・中期間招聘する一方、博士課程学生を含む若手研究者を海外の研究拠点に1ヶ月以上の中・長期間派遣することにより、研究の視野を広げ、新たな領域へ斬り込む開拓者精神を涵養する。
- 国際会議開催
国際会議と国際ワークショップを開催し、最新の研究情報の交換と、研究交流の場とする。
- 教員人事・博士研究員の採用
研究環境の多様化の一貫として、研究推進特任助教授や外国人博士研究員を、多様なチャンネルを活用して国際公募により採用している。
- 海外大学院等との連携
前述のミュンスター大学との日独共同大学院プロジェクトにより、博士課程学生の中・長期相互派遣や若手教員の教育研修派遣を実施する一方、ミシガン大学等と人事交流や共同研究を行っている。今後、TATA研究所(印)、NIST 研究所(米)、グロニンゲン大学(蘭)等とも連携し、国際的な研究交流・連携事業を拡大する。
- 外国人客員教授
物質科学国際研究センター外国人客員教授枠を活用し、長期滞在研究者(6–12ヶ月)との共同研究を積極的に実施する。

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