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社会に生きる心の創成 【玉川大学グローバルCOEプログラム】

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玉川大学 脳科学研究所
〒194-8610 東京都町田市玉川学園6-1-1
TEL: 042-739-8666
E-mail: t.instit[アットマーク]adm.tamagawa.ac.jp
URL: http://gcoe.tamagawa.ac.jp/




はじめに
ヒトの理解とは、その心の理解であるということもできます。ヒトの心はそれをはぐくんできた社会を反映し、また、我々は脳が心をつむぎだすとも信じています。したがって、心の理解とは、それが適応する社会に対する脳の働きを理解することに他ならないのです。社会に生きる脳の働きを理解するためには、脳の解剖学的・生理学的理解(すなわち生物学的理解)に加え、それが働きかける社会の仕組みもあわせて考えなければなりません。そのために、玉川大学脳科学研究所では、グローバルCOEプログラムを通して人文社会科学と脳科学の融合的研究を推し進めるとともに人材育成を行っていきます。

図1


拠点の紹介(概要)
脳科学の成果をよりよい生活や教育に活かしていくことは、多くの人が期待していることです。しかし、安易な応用は危険ですらあります。脳科学の成果を応用することが難しいのは、これまでの脳科学が方法論的制約もあり「脳の生物学的機能」「個の脳科学」に重点を置いてきたためだと考えられます。生活や教育に関する問題は、人間間の相互作用にその本質があり、「脳の生物学的機能」との連続性を持った「社会(集団)の脳科学」の研究が必要なのです。

海外では、NIH、カリフォルニア工科大学、ニューヨーク大学、チューリッヒ大学などで、経済学・哲学の研究者と脳科学者の連携が進んでおり、社会脳に関する学際的研究が始まっていますが、国内ではこれほどの規模で融合研究が行われているところはいまだ数少ないのが現状です。

玉川大学では、21世紀COEプログラムの活動を通して、遺伝子解析、動物を使った心理・神経科学研究、乳幼児発達研究、fMRIを使った脳機能イメージング研究を行う環境と人材が整いました。中でも、サルを使った高次脳機能研究は世界的にも高い評価を得ています。また、乳幼児の発達研究においても、実験協力者の登録が常時1000人以上ある「赤ちゃんラボ」を擁し、学内外との多くの共同研究を行っています。

本グローバルCOEプログラムでは、これらを拠点に人文社会科学と脳科学の融合的理解をより一層進め、ヒトの心の理解に関係する伝統的な学問の再構築ができる人材育成を行います。ヒトの心が脳によってつむぎ出されるのであれば、ヒトの心の科学的理解である脳機能的理解が伝統的学問の再構築を促さなければなりません。なかでも学校・社会教育における心の脳科学的理解の知見の提供は、現代社会の差し迫った要請であり、教育の大学を標榜する玉川大学の課題でもあります。しかし、わが国にはこのような文理融合的教育研究拠点がほとんどありませんでした。そこで、これまでの研究活動により培ってきたユニークな研究基盤をベースに、文理融合研究で世界の先端を行くカリフォルニア工科大学と連携することにより、社会に生きる心の理解の世界的拠点を形成することを目指します。


教育・研究活動
我々は、ヒトの心の理解とはそれが適応する社会に対する脳の働きを理解することに他ならないと考えています。そのためには、脳の解剖学的・生理学的理解(すなわち生物学的理解)に加え、それが働きかける社会の仕組みもあわせて理解していかなければなりません。したがって、個と社会との相互作用によってできあがった「社会的心(脳機能)」が、我々の教育・研究の対象となります。社会的心とは、基本的な脳機能である「思考(知)」「感情(情)」「意思(意)」が環境適応的に相互作用した結果であると考えます。我々は、社会的心の中でも、1)ヒトの行動の経済的合理性と不合理性(経済観)、2)ヒトの倫理観とモラル(倫理観)、3)ヒトのシステマティックな対人関係(友愛観)を作り出す機能が基本的な脳機能からどのように発展し、実現されているのかを明らかにすることをめざします。

人材育成としては、まず基本的脳機能を研究する神経科学的方法について、大学院時代に実験、講義、討論を通して習得させます(脳科学研究所・工学研究科脳情報専攻には基礎的脳機能研究で世界をリードする研究者がそろっており、十分な基礎教育が期待できます)。その上で社会的心に関する3テーマのうち1つの共同研究に参加することにより、新しい融合的脳科学について考え、独自の道を切り開いていく能力を養います(脳科学研究所ではすでに3つのテーマの社会的脳機能に関する共同研究が始まっており、人文社会学・新融合領域の外部の非常勤研究員も多数参加しています)。このような先端的融合研究は、①まず核となる研究方法を身につけ、②その上で周辺領域との融合・統合をめざす必要があります。そのために、我々の拠点は大学院博士課程-ポストドクトラル課程一貫制を採用しています(2ステージ制)。ステージ1の修了要件を満たした院生は、ポスドクとしてあるいはポスドク待遇でステージ2に移行でき、国際公募によって採用されたポスドクは、融合研究のトレーニングの場としてステージ2に組み込まれます。しかし、ステージ1とステージ2の垣根は低く、ステージ1の院生が融合研究に関する特別講義を聞いたり、融合研究に関する討論に参加することもでき、ステージ2のポスドクでも必要に応じてステージ1の講義を聞いたり、実習に参加することもできます。

大学院生・ポスドクの基本的な教育は、玉川大学大学院工学研究科・農学研究科・脳科学研究所で行われますが、連携拠点であるカリフォルニア工科大学との交流・共同研究プログラムを通して、また理化学研究所・東京都神経科学総合研究所・昭和大学などとの連携を通して、長期・短期の研修はもちろんのこと、研修の枠を超えた、教育・共同研究も行われています。大学院生には、国際的な交流に必要な実践的な英会話・英語論文作成のための教育も行います。

求められる人物像
・ 新しい心の科学を開拓する研究者
・ 新しい人間観・社会観を持った教育者
・ 新しい社会のニーズに応え、またそれを開拓する技術者


海外との連携
本拠点には、NIH(米国国立衛生研究所)、ケンブリッジ大学、カリフォルニア工科大学、ローザンヌ工科大学、昭和大学といった、世界の神経科学研究で中心的役割を果たす拠点から事業推進担当者としての参画があります。その他にも、ボストン大学、オックスフォード大学、北京大学、理化学研究所、東京都神経科学総合研究所、東京大学、東北大学、北海道大学、大阪大学、東京工業大学などとも交流があり、このネットワークを通して、最先端の研究に関する情報やポスドクを含む研究者情報の交換を行っています。

これにより、優れた研究者の雇用や大学院生・若手研究者の派遣・受入れを行い、特に連携拠点であるカリフォルニア工科大学とは、教育研究協力協定書を交わし、カリフォルニア工科大学における研修によって玉川大学の単位が認定されるとともに、お互いが持つ研究用機器の相互利用を可能とし、交流の促進を図っています。

2009年で11回目を迎えるTamagawa Dynamic Brain Forumも世界各地で開催され、坂上教授(玉川大学)、O'Doherty教授(ダブリン大学)が中心となって毎年開催している報酬と意思決定に関する国際シンポジウムと合わせて、本拠点から世界に情報発信を行います。


研究環境整備

写真1
研究センター棟の整備(平成20年竣工)
写真2
遺伝子実験施設
写真3
fMRIの導入
写真4
動物実験施設
写真5
発達実験施設
写真6
ロボット実験施設


教育研究協定
カリフォルニアエ科大学とは、教育研究協力協定書を締結し、カリフォルニア工科大学において研修を行うと玉川大学の単位として認められます。さらに、年一回集中講義形式の国際レクチャーコースを玉川大学あるいはカリフォルニア工科大学で開催し、講師として玉川大学とカリフォルニア工科大学から事業推進担当者が参加します。また、広く事業に関連する世界的研究者を講師として招聘しています(すでに2006年度(カリフォルニア工科大学)、2007年度(玉川大学)、2008年度(カリフォルニア工科大学)に開催)。また、独立行政法人理化学研究所や東京都神経科学総合研究所などとも同様の協定を結んでおり、大学院生・ポスドクの指導者、共同研究者の可能性の幅を広げます。

カリフォルニア工科大学との連携
1. 文理融合的研究の促進

カリフォルニア工科大学では脳科学と人文社会科学との融合的研究を精力的に進めています。特に神経経済学では世界のトップを走っており、今回の連携では、カリフォルニア工科大学の中でも人文社会学部が中核を担う組織となります。玉川大学で行う文理融合研究に彼らのノウハウは極めて有効であり、玉川大学、カリフォルニア工科大学合同のレクチャーコースを開催したり、長期・短期研修を実施します。

2. 国際的ネットワークの形成
カリフォルニア工科大学はヒトの意思決定の脳メカニズムの研究や神経経済学の研究では世界をリードしています。さらに彼らが中心に位置する、この分野の研究者の世界的ネットワークに我々が参加することにより日本の研究の世界への発信、世界の研究動向のいち早い理解に極めて有用です。また、若手研究員・大学院生が国際感覚を養うためには絶好のパートナーです。

3. 高次脳機能研究の補完と促進
玉川大学は、動物実験による意思決定の脳メカニズムの研究では世界トップクラスにあります。カリフォルニア工科大学のヒトを使った脳研究とは補完的な位置関係にあり、交流・共同研究を行うことで、世界的に強力な教育研究センターとなりえます。本プログラムではカリフォルニア工科大学との強力なパートナーシップのもと、研究ばかりでなく院生・若手研究者の教育にも力をそそぎます。

図2


終わりに
写真 我々は、脳の基礎的機能の研究者としてこれまで「思考(知)」「感情(情)」「意思(意)」「コミュニケーション」などを探究してきました。社会的心とは、このような基礎的な生物学的脳機能が社会環境の中で相互作用し構造化されることにより、うまれたヒト特有の脳機能であると考えます。脳科学的な手法によって明らかにされた事実が、人文社会科学的理解にとって不可欠となる日が来た時、融合的な視点から社会と脳科学の関係について発言できる人材の有用性は計り知れません。そのためにも、我々は社会に還元できる脳と心の科学についてその基盤形成を行うとともに、社会が求める情報を発信できる脳研究者の育成をおこなう拠点形成を目指します。