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カイコによる薬剤などの開発と新ビジネスモデルの提案 【株式会社ゲノム創薬研究所 関水信和】

写真 株式会社ゲノム創薬研究所 ラボ・事務局
(東京大学発のベンチャー企業)


〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学アントレプレナープラザ402号室
http://genome-pharm.jp/



開発された新しい技術
当社は東京大学薬学系研究科関水和久教授の研究室と共同開発した技術の事業化を図っています。我々は実験動物としてのカイコ幼虫の有効性に7年前より着目し、技術を特許化し、いろいろな利用法の開発を行っています。例えば、細菌・真菌感染症モデル(図1参照)により、多くの土中細菌由来の自然物ないし化合物ライブラリーをスクリーニングし、抗生物質の候補剤の探索事業を展開しています(昨年、医薬基盤研究所が基礎研究事業として認定)。また最近特に注目されている自然免疫を活性化させる物質の評価(図2参照)を行う技術を開発しました。この技術により、いろいろな食品に含まれている自然免疫の活性化物質を測定評価し、同物質が豊富に含まれている食品からより多く抽出する方法を開発し、サプリメントとして製造する方法を研究しています。

実験動物としてのカイコ幼虫の有効性
①低い実験コスト(大規模施設不要、人工飼料で通年飼育可)
②実験の精度の確保が容易(多くの固体を利用し統計的解析可)
③薬物の血液内(ヒトの静脈注射に相当)と腸管内(経口投与に相当)に区別して注射が可
④倫理上の問題が少ないこと

図1 図2



新しいビジネスモデル
上記の二つのビジネスは、当社が開発している技術の中で最も事業化が進んでいるものです。ただし抗生物質の候補剤の開発は大変チャレンジングな領域で、もう少し時間を要します。一方の自然免疫の活性化物質の開発は、野菜より抽出したエキスをサプリメントとして近々に発売の予定です。この二つの技術は共にカイコ幼虫を利用するものですが、全く異なる技術(共に特許申請中)に基づいて開発されたものです。
ところで、多くのベンチャー企業が研究資金の調達に大変苦労しています。創業資金ないしエンジェル(個人の投資家)、ベンチャー・キャピタルなどからの投資資金が投入されてから商品が開発されるまでの期間(売上のない時期)を“死の谷”などと呼びます。日本では投資資金の流入がアメリカほど豊富でないことから、この“死の谷”は長くなる傾向にあります。
この問題を解決する策の一つが、つなぎ商品の開発です。大学発のベンチャー企業には、図3の左側のように教官(発明者)が起業後も関与しているケースと図3の右側のように教官(発明者)・TLOなどが技術を新しい企業に移転させているケースがあります。当社は左側のケースです。左側(教官が継続関与)のケースでは、特許化された技術の他に暗黙知と呼ばれるような技術も教官から提供を受けやすいという要因もあり複数の商品を開発することが可能となります。右側(大学より技術を移転)のケースは、特許化された技術のみの移転に留まり、技術の多元的な発展には限界があります。左側のケースは、主力商品の技術とは関係のない関連商品(副次的商品)の開発が可能です。右側のケースでは、主力商品の技術を用いた関連商品(中間的商品)の開発のみ可能です。特に左側のケースのように多くのアイデアからマーケット性なども勘案した商品を開発することが、よりベンチャーの経営を安定させると考えられます。

勿論、体力のないベンチャー企業に複数の商品の開発は無理という考え方もありますが、図4のような調査結果があります。図4の「主力商品の技術とは関係のない関連商品開発」とは概ね図3の「副次的商品」に該当し、「主力商品の技術を用いた関連商品開発」の一部は図3の中間的な商品に該当するように思われます。少なくとも、大学発のベンチャー企業の一部は、主力商品の完成までに、何らかの形で、つなぎ商品の開発を行っているということです。

図3 図4



このつなぎ商品の開発を資金繰りが苦しくなってからするのではなく、むしろ計画的に経営の安定化のために実施し、知的財産権の構築と財務戦略を全社的に実施することが重要です。
つまり、大学発のベンチャー企業の場合、市場と技術内容にもよりますが、極力、教官(発明者)が創業後も関与して、図3の左側のように暗黙知の提供を受け、全社レベルの計画的な経営戦略により複数の商品を開発し、経営の安定を図ることを積極的に検討すべきと考えます。そのことにより、図5 の下(複数の商品を開発の場合)のように“死の谷”を短くすることができると考えられます。

図5



文責:㈱ゲノム創薬研究所
アントレプレナー 関水信和