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神経幹細胞とニューロン新生 【京都大学 影山龍一郎】

影山 龍一郎 教授 影山 龍一郎 教授
京都大学 ウイルス研究所 細胞生物学研究部門 増殖制御学研究分野

〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53
http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/Kageyama/index.html





当研究室では、哺乳動物の脳がどのようにして形作られるのかを明らかにしようとしています。脳神経系の発生過程では、比較的均一な神経幹細胞から極めて多様性に富んだニューロンやグリア細胞が分化します。この発生過程は、転写因子によって厳密に制御されます。本研究室では、この発生過程を次の4つのステップに分けて、それぞれを制御する転写因子を同定し、脳形成における遺伝子発現制御ネットワークを解明してきました。

1.神経幹細胞の増殖・維持
2.神経幹細胞からニューロンへの分化
3.神経幹細胞からグリア細胞への分化
4.ニューロンのサブタイプの決定

私達の解析から、上記のいずれのステップもbHLH因子(basic region-helix-loop-helix構造を持つ転写制御因子)が重要な役割を担うことが明らかになりました。神経幹細胞の増殖・維持には、bHLH因子Hes1やHes5が必須です。また、発生後期には、Hes1やHes5はグリア細胞への分化を促進します。一方、bHLH因子Mash1やMath3はニューロンへの分化を決定します。しかし、Mash1やMath3だけではニューロンのサブタイプまで決めることはできません。サブタイプの決定にはbHLH因子とホメオボックス因子の組み合わせが重要です。この組み合わせから、特定のサブタイプのニューロンだけを再生することが可能になりつつあります。

興味あることに、bHLH因子Hes1は2時間周期のリズムを刻む生物時計として働くことがわかりました。Hes1の発現はネガティブフィードバックを介して自律的に2時間周期で増減を繰り返します(オシレーション)。神経幹細胞においてもHes1の発現はオシレーションしており、リズムを刻んでいました。この発現オシレーションは、神経幹細胞の分化や増殖に非常に重要であることがわかりました。

神経幹細胞の維持やニューロンの形成は胎児の脳に特異的なことではなく、成体の脳でも盛んに起こっています。成体の脳で神経幹細胞の維持やニューロンの形成を阻害すると、脳組織の一部が崩れ、脳の中の海馬に依存する空間記憶が維持できなくなりました。今後、成体脳での神経幹細胞の維持やニューロンの形成の分子機構を明らかにし、脳疾患の治療方法を探る予定です。

図1
図.成体脳におけるニューロン新生
成体マウスの脳で新たに形成されたニューロンを黄色/緑色に標識した。