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宇宙の謎に挑戦するニュートリノ観測装置 【東北大学 井上邦雄】

井上 邦雄 教授 井上 邦雄 教授
東北大学 大学院理学研究科 ニュートリノ科学研究センター

〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
http://www.awa.tohoku.ac.jp/





中性で非常に軽い素粒子ニュートリノは、物質粒子として宇宙に桁外れに多く存在しています。このニュートリノの性質を解明することは、力や物質の根源を統一的に理解する素粒子大統一理論の構築とともに私たちが住む宇宙の理解に繋がります。また、ニュートリノは物質とほとんど相互作用せず、天文学的な距離の物質をも容易に突き抜けます。

高い透過性から補足困難なニュートリノを観測するには、大量の標的物質で反応確率を稼ぐ必要があり、そのためニュートリノ観測装置は一般に巨大です。物質内で反応したごく一部のニュートリノは、電荷を持つ粒子を生成したり反跳したりします。荷電粒子は様々な手法で観測できますが、東北大学が推進するカムランドは、素粒子反応で発光する油(液体シンチレータ)を用います。カムランドは、地下1000mに1000tもの液体シンチレータを蓄えており、放射性不純物が通常の物質の1兆分の1という極低放射能環境を実現しています。設置場所である岐阜県飛騨市の周囲には多くの原子力発電所があり、核分裂に伴い放出される反電子ニュートリノを平均180kmの距離で観測することができます。カムランドでは、その反電子ニュートリノが減少・復元を繰り返すニュートリノ振動を高精度で観測することに成功し、太陽からの核融合起源ニュートリノが太陽の明るさと比べ有意に少ないという太陽ニュートリノ問題を解決しました。伝搬様式が理解できたニュートリノは、その高い透過性を活かして不可視の天体内部の観測に応用できます。最も身近でありながら多くの謎が残る地球を理解するには、内部での熱生成解明が不可欠です。カムランドは、地球内部放射性物質の熱生成に伴うニュートリノ観測に成功し、ニュートリノ地球物理を創出しました。同様に太陽内部の詳細観測による太陽組成の謎の解明も目指しています。

図1
建設時の観測装置内部


また、中性のニュートリノは粒子・反粒子の区別が無い可能性があり、これは素粒子大統一理論やニュートリノのみが極端に軽い理由、ビッグバンにより無から生じた宇宙になぜ反物質が無いのかなどを解明する鍵となります。ニュートリノを放出しない2重ベータ崩壊という現象はニュートリノに粒子・反粒子の区別が無いときに生じ、その発生頻度から未解明のニュートリノ質量も決定することができます。ごく希なこの現象の探索には極低放射能環境が必須であり、カムランドが有する極低放射能環境を活用した世界最高感度での探索も計画されています。

図2
カムランドでのニュートリノ観測