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GFP標識ファージによる大腸菌O157:H7の迅速検出 【東京工業大学 丹治保典】

丹治 保典 准教授 丹治 保典 准教授
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生物プロセス専攻 生物化学工学分野

〒226-8501 神奈川県横浜市緑区長津田町4259 J2-15
http://www.biochemeng.bio.titech.ac.jp/





腸管出血性大腸菌(EHEC)による細菌感染症は、1996年以降、国内で継続的に発生している。感染者から検出されるEHECの血清型はO157:H7が最も多く、発生源や感染経路の特定には迅速な病原菌の検出が必須である。しかし、公定法に基づく大腸菌O157:H7の検出には、幾つかの培養操作を必要とすることから2~3日程度の時間を要する。感染源の特定や、治療指針の決定には迅速で高感度な検出法の確立が必須である。

新技術である緑色蛍光タンパク質(GFP)でラベルしたファージによる、特定細菌の検出原理を図1に示す。GFPは2008年のノーベル賞受賞者である米ボストン大学名誉教授下村氏が1962年にオワンクラゲから分離精製したタンパク質である。GFPに紫外線を当てると緑色の蛍光を発する。一方、ファージは細菌に感染するウイルスであり、感染する相手(宿主)を厳密に見分ける能力を持つ。例えば、ブタ糞便から独自に分離したPP01ファージは大腸菌O157:H7だけに感染し、他の細菌や血清型の異なる大腸菌には感染しない。このようなファージ感染の宿主認識特異性は、ファージの足先(テールファイバー)先端に存在するリガンドタンパク質と宿主レセプターとの特異的結合に由来する。PP01ファージの場合、大腸菌O157:H7の表層に提示される外膜タンパク質C(OmpC)がレセプターとして機能する。大腸菌O157:H7と非病原性一般大腸菌であるK12のOmpCアミノ酸配列を比較すると97%一致した。しかし、PP01ファージのリガンドは僅か3%の違いを厳密に見分けた。ファージテールファイバーは高感度分子認識センサーといえる。

ファージは宿主に感染した後、感染後期に溶菌酵素を発現し宿主を溶菌する。そこで、溶菌酵素の発現を欠損させた蛍光標識ファージを分子構築することで、溶菌を起こすことなく細菌の検出が可能となる。PP01ファージにGFP蛍光標識を行ったPP01-GFP(e–)ファージを用いた大腸菌O157:H7の検出結果を示す(図2)。溶菌能を欠失させることにより、ファージ被感染細胞が鮮明に蛍光を発していることがわかる。

ファージは宿主である病原菌を殺す能力を持つ。この性質を利用すると、ファージによって病原菌を制御することができる。現在、大腸菌O157:H7や黄色ブドウ球菌をファージでコントロールする研究も同時に進めている。


図1
図1 蛍光性ファージによる細菌の検出原理


図2
図2 蛍光標識ファージによる大腸菌O157:H7の検出
(上)明視野 
(下)蛍光視野
細菌とファージの接触時間は100分。