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柔らかく生体に優しいウエアラブルバイオセンサ 【東京医科歯科大学 工藤寛之】

工藤 寛之 講師 工藤 寛之 講師
東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 システム研究部門 計測分野

〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-3-10
http://www.tmd.ac.jp/i-mde/www/





東京医科歯科大学・生体材料工学研究所 計測分野では、「センシングバイオロジーに関する基盤技術の戦略的推進事業」をはじめ、生体液成分や揮発性生体情報などの非侵襲計測のためのバイオデバイス、及びその医療応用に関する研究を行っています。

近年、社会の高齢化に伴い、人々の健康に対する意識も飛躍的に向上しています。国民一人一人の健康を向上させるためには、各種生体計測による予防医療の強化が重要です。特に被験者に意識させることなく各種生体情報をモニタリングする非侵襲計測技術は、次世代の医療を支える基盤的技術として期待されています。こうしたセンサには、既存の物理・化学センサに求められてきた感度や信頼性といった性能のほか、装着感や生体適合性など生体計測用のセンサに特有の機能も要求されます。

そこで、我々は機能性高分子材料であるpolydimethylsiloxane (PDMS)や2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)とdodecyl methacrylate (DMA)の共重合体(PMD)を材料とすることで、眼部における涙液成分の連続モニタリングを目的とした、柔軟で生体適合性に優れたウエアラブルグルコースセンサを開発しました(図1)。本センサは、厚さ350μmのPDMS上に、半導体技術を用いて薄膜電極を形成し、感応部にグルコース酸化酵素(GOD)を含むPMDを硬化させることで包括固定化したものです。感応部にPMDを用いることで、装着時に異物感の少ない、長時間計測に配慮した構造となっています。センサの作用電極に650mV(v.s. Ag/AgCl)の定電位を印加し、グルコース酸化酵素の反応生成物を検出することでグルコースを定量します。評価の結果、ウエアラブルグルコースセンサを用いることで、0.06-2.00mmol/lの濃度範囲でグルコースの定量(相関係数:0.997)が可能でした。健常者の涙液中に含まれるグルコースはおよそ0.14-0.23mmol/lであり、本センサを用いることで涙液中のグルコースを連続的に評価可能と期待されます。

現在は、PDMSを成型したコンタクトレンズ上に薄膜電極を形成する技術を開発し、コンタクトレンズ型のグルコースセンサへと研究を展開しています。コンタクトレンズを装着しているだけで涙液中のグルコースを連続的にモニタリングできれば、血糖値の非侵襲連続評価に有効です。また、本センサは単に柔軟なだけでなく、貼付部位の伸びや形状変化に対しても追従できるため、眼部のみならず皮膚への装着や体内への埋め込み等、多様な部位・計測対象への応用が可能です。以上、柔軟性と生体適合性を特徴とした新しいバイオセンサは、ユビキタス時代における新しい生体センシング技術の創出と、国民の健康の向上に寄与するものと期待されます。


図1
図1.ウエアラブルバイオセンサの外観写真