HOME > 研究 > iPS細胞が作製されるメカニズムの一端が明らかに? --ヒト内在性レトロウィルスHERV-Hの働きと細胞の初期化の関係

一覧へ戻る

掲載機関:Japanest NIPPON   掲載日:2014/08/14

iPS細胞が作製されるメカニズムの一端が明らかに? --ヒト内在性レトロウィルスHERV-Hの働きと細胞の初期化の関係

山中 伸弥
京都大学iPS細胞研究所

Contact
Address: 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53
URL : http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/yamanaka_group/


iPS細胞が作製されるメカニズムの一端が明らかに?
--ヒト内在性レトロウィルスHERV-Hの働きと細胞の初期化の関係


難病解明研究、新薬開発や再生医療など、医学の様々な分野で応用が期待されているiPS細胞。iPS細胞は、その多能性によっていろいろな細胞へ分化することが可能ですが、中には他の細胞へ分化しにくい、分化能の低いものがあることがこれまで報告されていました(このような細胞を分化抵抗性iPS細胞と呼びます)。また、一部にはiPS細胞の多能性をうまく維持できていないものも報告されています。なぜこのようなiPS細胞が生じるのか、その仕組みはよく分かっていませんでしたが、今回、大貫茉里研究員(現ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン/元京都大学CiRA)、山中伸弥教授および高橋和利講師らの研究グループでは、この仕組みについて明らかにしました。

グループが明らかにしたメカニズムは以下の通りです。
ヒト体細胞がiPS細胞へと初期化される過程では、ヒトゲノムが内在しているHERV-H LTR-7が一過性に活性化されており、この活性がiPS細胞の作製や十分な分化能の獲得に必要であることが分かりました。さらにLTR7は、正常なiPS細胞作製時では、ある時点を境に弱まりますが、分化抵抗性iPS細胞では活発に働き続けており、正常なiPS細胞を作る際の妨げとなっていることが分かったのです。

今回の研究で明らかにされたのは、これまで分からなかった細胞の初期化の非常に重要なメカニズムの一端です。今後、高い分化能を持ち、高品質なiPS細胞を効率よく安定的に作製していく技術に繋がることが期待されています。

今回の研究については、2014年8月4日(米国東部時間)に、米国科学誌「PNAS」のEarly editionに掲載されました。


研究の詳細

グループでは、まず、正常なiPS細胞にくらべ、分化抵抗性iPS細胞の遺伝子発現が、体細胞がiPS細胞へと初期化される途中の状態によく似ていることを明らかにしました。さらに調べると、iPS細胞への初期化過程と、分化抵抗性iPS細胞では、HERV-Hの部分にある、「LTR7」と呼ばれる遺伝子が活性化していることが分かりました。比較のために、初期化させる通常の細胞にLTR7の活性を抑えるRNAを導入したところ、iPS細胞の作製効率が著しく低下しました。
この結果から、HERV-Hの一過性の活性が、細胞の初期化の過程で重要な役割を果たしていることが分かりました。

次に、HERV-Hに加え、初期化因子の一つであるKLF4の発現が分化抵抗性iPS細胞で高くなっていることを見出しました。そこで、同じく活性を抑えるRNAを用いて、分化抵抗性iPS細胞でのKLF4とLTR7の働きを抑えたところ、それぞれでHERV-Hの発現が抑制され、分化抵抗性iPS細胞は通常のiPS細胞と同程度の分化能を示すようになりました。このことから、KLF4が異常に活性することでHERV-Hの活性を引き起こし、分化抵抗性を引き起こすことが示されました。



注)HERV-H
ヒト内在性レトロウイルス(HERV)の一つ。内在性レトロウイルスとは、ヒトの進化の過程において感染した、外来性レトロウイルスが宿主の生殖細胞のゲノムに入り込むことで、その系統のゲノムの一部として遺伝されるようになったウイルス由来遺伝子。内在性レトロウイルスの一部は細胞内でたんぱく質を発現し、病原性の外来性レトロウイルスの感染の阻止や胎盤形成に使われていることが明らかになっている。