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掲載機関:東京工業大学 大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻  掲載日:2011/11/10

新しい大気圧プラズマ源の開発と各種産業応用 【東京工業大学 沖野晃俊】

沖野 晃俊 准教授
  沖野 晃俊 准教授
  東京工業大学大学院総合理工学研究科 創造エネルギー専攻


  Address: 〒226-8502 横浜市緑区長津田町2459-J2-32
  URL: 沖野研究室 http://www.es.titech.ac.jp/okino/
  株式会社プラズマコンセプト東京 http://www.pc-tokyo.co.jp/



大気圧下で生成されるプラズマは真空容器や排気設備を必要とせず、連続的なプラズマ処理が可能なため、ここ数年、急激に注目を集めています。現在までに開発されて市販されている大気圧プラズマ装置は、室温程度のヘリウム、アルゴン、空気等のプラズマを発生できるため、半導体表面のクリーニング、プラスチック等の接着性向上などに使用され始めています。しかし、使用できるガスや生成できるプラズマの大きさや形状に制限があり、かつ火花放電による処理対象物の損傷が問題となっています。

沖野研究室では、あらゆるガスをプラズマ化できる、「マルチガスプラズマ」を一つの重要なキーワードとして大気圧プラズマ源を開発しています。マルチガス化によって所望のガスで自由にプラズマを生成できるため、親水化や接着性の向上だけでなく、CVDなどの手法を用いたコーティング処理などの可能性が大きく広がります。また、低温かつ放電損傷のない、「ダメージフリープラズマ」を開発しています。ダメージフリープラズマでは、従来の半導体やプラスチックだけでなく、金属、繊維、紙、生体等へも高密度プラズマ処理を適用する事ができます。さらに、プラズマ照射部を手で持って照射できる「ハンディ」なプラズマ源を開発しています。もちろん、ロボットを用いて精密に移動・照射する事も可能です。平板やシートだけでなく、複雑な形状の対象へのプラズマ照射が可能になります。そして、これらのプラズマを用いた「高速」かつ「低温」のコーティング、親水化、クリーニング、殺菌技術を開発・提案しています。


ジェット型マルチガス
ダメージフリープラズマ

金属や生体を近づけても外部に放電が生じず、放電損傷を与えない大気圧プラズマジェットです。ダメージフリーなので右上の写真のように高密度プラズマに直接触れる事ができ、また、アセトン等を近づけても引火しません。このプラズマは室温程度の低温であるため、金属、半導体、繊維、紙、生体、低融点材料への高密度プラズマ照射が実現できます。


図1
【図1】 世界で初めて開発に成功した大気圧マルチガスダメージフリープラズマジェット

また、このプラズマ源は上の写真のようにほとんど全てのガスで安定に大気圧プラズマを生成可能な、マルチガスプラズマ源です。CVDの原料となる有機系ガス等の混合も可能なので、所望な組成のガスでプラズマを生成する事ができます。このため、表面洗浄、 親水化・撥水化、殺菌等の単純表面処理だけでなく、コーティングやCVDなどの高度な表面処理に極めて有効なツールになります。また、プラズマ源からプラズマが吹き出すリモートプラズマなので、処理対象物の厚みや形状を問わない点も産業応用上、有利な点となります。

【応用例:ポリイミドの親水化処理】
ポリイミド(polyimide)は電子回路材料の絶縁基材や半導体素子の表層の保護膜等として広く使用されていますが、電子回路の集積化、複雑化に伴って、配線剤である金属との密着性、多層化した際の密着性などが問題になってきています。様々なガスのプラズマを照射した結果、各種ガスに酸素を混合したプラズマを照射した場合に親水化効果が高いことが明らかになりました。最適な条件では、0.1秒以下の照射で完全な濡れ性を実現しました。


図2
【図2】 低温かつ放電損傷を生じないため、直接触れることができ、アセトン等を近づけても引火しない。ト

リニア型ダメージ
フリープラズマ

近年、リニア型の大気圧プラズマ装置が市販され、フラットパネルの洗浄などに利用され始めています。しかし、これらの装置は移動のできない据え付け型の装置でした。沖野研究室では高周波マッチング回路を工夫し、装置を軽量化する事で、25センチのリニア型ハンディダメージフリープラズマを開発する事に成功しました。プラズマ生成部はわずか1.5kgのため、手で持って照射する事もできます。
さらに、特殊な電極配置や電源特性によりプラズマ源の外部に電界が漏れず、金属や生体を近づけても雷放電が生じないため、金属、半導体、繊維、紙、生体、低融点材料への高密度プラズマ照射が実現できます。さらに、1mの大型化実証装置の開発にも成功しています。

【応用例:金属の高速クリーニング】
大気圧プラズマで物質の表面を処理すると、有機物を除去(クリーニング)したり、-COOH や-C=O を生成する事が可能です。これによって表面は親水化され、接着性や塗装性を向上させる事ができるため、フラットパネルのクリーニングや自動車部品の接着に大気圧プラズマ処理が使用されるようになっています。
開発した25cmリニア型プラズマを用いて、銅板の親水化処理を行いました。プラズマや発生するラジカルの高密度化だけでなく、プラズマの流れや外気の混入を制御する事で、これまでに900mm/sec (3.2km/h)という高速処理を実現しています。


図3
【図3】 銅板表面のクリーニング速度

図4
【図4】 開発した、リニア型ハンディダメージフリープラズマ

マルチガス高純度熱プラズマ
従来、1kW 程度の大気圧熱プラズマ装置では、基本的にアルゴンしか使用できませんでしたが、沖野研究室では大気圧プラズマの安定生成にはガス流が重要である事を明らかにし、各種ガスのプラズマを安定に生成する方法を開発してきました。大気圧マルチガス高純度熱プラズマでは、アルゴンのほか、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、空気など様々なガスを、約1,500〜6,000℃の高温高密度プラズマ化する事ができます。電極を使用しないため、極めて高純度なプラズマを生成できます。また、液体や粉体の直接導入も可能です。
様々なガスでプラズマを生成でき、その中に液体、固体、気体を直接導入できるため、それぞれのプラズマ処理にとって理想的な原子・分子組成の大気圧プラズマを生成することが可能になります。つまり、処理速度の向上、生成物質の精度向上、材料の低減による低コスト化が期待できます。当研究室では、このプラズマ源を用いて、大気圧下での高速半導体プロセシング、CVD、液体・気体の直接分解処理、ナノ粒子製造、超高温焼き入れ、表面酸化処理、一細胞中の全元素高感度分析などの研究を行っています。

図5
【図5】 大気圧マルチガス高純度熱プラズマ

【応用例:地球温暖化ガスの高効率分解処理】
手術用の麻酔ガスに使用されている笑気ガスは二酸化炭素の約300倍の温暖化係数を持つ温室効果ガスであるにもかかわらず、日 本では1年間に約1,000トン(二酸化炭素換算で30 万トン)がそのまま大気中に放出されています。沖野研究室では、手術用麻酔ガ スを排気時に混合される圧縮空気とともにそのまま熱プラズマ化し、熱だけでなく、ラジカル、紫外線、高エネルギー荷電粒子等も用いて、高いエネルギー効率で分解処理する大気圧プラズマ処理装置を開発しています。
その結果、すでに99.98%の分解率と、1,180g/kWhという極めて高い分解効率を達成しており、市販装置の開発を検討しています。


図6
【図6】 麻酔ガスで生成した大気圧熱プラズマ



Profile
おきの あきとし 
1965年京都市出身。京都市立堀川高等学校卒業
大阪大学大阪大学工学部応用物理学科卒業
大阪大学大学院応用物理学専攻博士前期課程修了
東京工業大学大学院原子核工学専攻博士課程修了
工学博士
東京工業大学工学部電気・電子工学科助手などを経て、現職。
プラズマ工学と分光計測をベースとして、世界最先端の大気圧プラズマ源の開発、
単一細胞中の極微量元素分析、地球温暖化ガスの分解処理、
プラズマを用いた表面処理、大気圧プラズマの医療・歯科治療応用などの研究が専門。
2008年株式会社プラズマコンセプト東京を起業し、取締役に就任。