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掲載機関:大阪大学 大学院医学系研究科 機能診断科学講座 免疫造血制御学研究室  掲載日:2012/03/08

ウィルムス腫癖遺伝子(WT1)を標的としたがんに対する免疫療法の開発

杉山 治夫
大阪大学 大学院医学系研究科 
機能診断科学講座

Address: 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-7
URL: http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~hmtonc/


がん細胞に高く発現するたんぱく質「ペプチド」は、免疫細胞であるリンパ球に認識され攻撃を受けます。このようなペプチドを外側から与え、免疫細胞を活性化させようというのがペプチドワクチンによる免疫療法です。
私たちは、WT1たんぱくが白血病やほとんどすべての種類の固形がんで発現汎腫疹抗原であることを発見し、WT1たんぱくを標的にしたがんの免疫療法を開発しました。

WT1ペプチドによる免疫療法とは

「WT1たんぱく」は、449個のアミノ酸からなるたんぱくです。このたんぱくの一部である、9個のアミノ酸からなる、がん抗原性の強い「WT1ペプチド」が、がん細胞の表面にあるHLAという分子に結合して存在し、これががん細胞の目印となることを私たちは証明しました。
このWT1ペプチドを合成し、これをがん患者の皮膚に打つと、皮膚に存在する抗原提示細胞に結合します。WT1ペプチドが結合した抗原提示細胞は活性化され、リンパ節まで遊走し、ここでWT1がん抗原をキラーT細胞に教えるのです。WT1がん抗原を教え込まれたキラーT細胞は活性化され、増殖し、リンパ流や血流に乗ってがんの部位に到達し、細胞毒を出してがん細胞を死滅させます。

もともとは、子どもの腎がんであるウィルムス履蕩の原因遺伝子であるWT1が、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病などの、ほとんどの白血病の細胞に現れていることを発見したことが、この研究へとつながっています。WT1が、白血病だけでなくほとんどすべての種類の図形がんに高発現する最強の汎腫湯抗原であることを明らかにし、1995年よりがんの免疫療法に取り組んできました。

2001年には、WT1ペプチドを用いたがんの免疫療法の第I相臨床研究を世界に先駆けて実施しました。HLA・A*2402タイプ陽性のがん患者に、WT1ペプチドを0.3mg、1.0mg、3.0mgの量でアジュパントとともに2週間ごとに1回、計3回投与したところ、重篤な副作用もなく、白血病細胞の減少、腫瘍の縮小、腫瘍マーカーの低下などの臨床効果が出現したのです。
2012年の段階で、3人の白血病患者が8年以上にわたり長期生存しております。

2009年のアメリカ・国立癌研究所による75種類のがん抗原の有用性の評価では、WT1が第1位にランクされています。


悪性がんへの効果

第I相臨床研究に続く第II相臨床研究においても、重篤な副作用が認められず、ワクチンの安全性が確かめられました。免疫力をより高めるため、改変型WT1ペプチド3.0mgを毎週1回、計12回皮内投与したところ、WT1ワクチンの投与部位には発赤、腫脹以外の副作用は現れませんでした。これは当初の予想通りで、WT1ワクチンの安全性が明らかになったのです。
また、治療法が全くなく、悪性度の非常に高い「再発脳謬芽腫(グリオブラストーマ)」 でも、約半数の患者に臨床効果が見られました。完全寛解になった患者では、1.7cm大の再発脳腫療が3カ月で完全に消失し、社会復帰することができました。
進行性膵がんの患者に対し、WT1ワクチンと標準的抗がん剤であるジェムザールを併用する臨床研究も行われ、約70%以上の患者に臨床効果が見られました。手術ができなかった末期のある患者では、WT1ワクチンによる免疫療法開始後に、膵がん急速に縮小、投与開始から8カ月めにPET検査で検出できなくなり、手術可能となりました。10か月めに手術を行ったところ、がんは完全に消滅していました。この人も現在社会復帰しています。
現在、WT1ペプチドワクチンの企業治験が、進行中です。

そして、大阪大学では、大学院医学系研究科がんワクチン療法学講座を事務局として、さまざまながんや血液悪性疾患に対して臨床試験を行っています。WT1ペプチドを用いたワクチン療法が、今後がん治療に大きく貢献することが期待されます。