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掲載機関:株式会社ゲノム創薬研究所   掲載日:2011/06/10

カイコによる薬剤などの開発と新ビジネスモデルの提案(2)

 関水 信和
  アントレプレナー・博士(政策研究)
  株式会社ゲノム創薬研究所(東京大学発のベンチャー企業)

  Contact

  Address: 〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学アントレプレナープラザ402号室
  URL: http://genome-pharm.jp/


カイコによる抗生物質・機能性食品の開発と毒性試験モデルなど複数事業で経営の安定を計るビジネスモデル

開発された新しい技術
当社は東京大学大学院薬学系研究科関水和久教授の研究室と共同開発した技術の事業化を図っています。我々は実験動物としての カイコ幼虫の有効性に8年前より着目し、技術を特許化し、いろいろな利用法の開発を行っています。例えば、細菌感染症モデル(右図 参照)により、多くの土壌細菌由来の天然物ないし化合物ライブラリーをスクリーニングし、抗生物質の候補剤の探索事業を展開して います(医薬基盤研究所が基礎研究事業として認定)。また自然免疫を活性化する物質を評価する技術と食品から多く抽出する技術を 開発しました(創刊号記事参照)。さらに最近は社会的に注目されている食品の安全を確認する技術(下図左参照)を開発しています(科学技術振興機構が産学 共同シーズイノベーション化事業として認定)。また糖尿病の治療薬を探索する技術(下図右参照)により血糖降下作用のある物質、食品も開発しています(昨 年、厚生労働省が創薬基盤推進研究事業として認定)。

実験動物としてのカイコ幼虫の有効性
(1) 少量多数検体のスクリーニングが可能
(2) 低い実験コスト(大規模施設不要、人工飼料で通年飼育可)
(3) 薬物の血液内(ヒトの静脈注射に相当)と腸管内(経口投与に相当)に区別して注射が可能
(4) 倫理上の問題が少ないこと

新しいビジネスモデル

記の複数のビジネスは、当社が開発している技術の中でも特に事業化が進んでいるものです。もっとも抗生物質の候補剤の開発は 大変チャレンジングな領域で、本格的な契約を製薬会社と交わすには、もう少し時間を要します。一方の機能性食品の開発は、野菜より抽出したエキスをサプリメントとして「ブロリコ」(右写真)の商品名にて共同研究企業より今年売り出されました。また食品の安全を確認する技術は大手食品評価分析企業と共同で新しい本格的なシステムの開発に取り組んでいます。さらにカイコ幼虫の糖尿病モデル を開発し、糖尿病薬の開発に取り組んでいます。これらの技術は共に実験動物としてのカイコ幼虫を利用するものですが、異なる技術 〔特許出願中(外国出願を含む)〕に基づいて開発されたものです。


ところで、最近のベンチャー企業は運転資金の調達に大変苦労しています。創業資金ないしエンジェル(個人の投資家)、ベンチャー・ キャピタルなどからの投資資金が投入されてから商品が開発されるまでの期間(売上のない時期)を“死の谷”などと呼びますが、日 本では投資資金の流入がアメリカほど豊富でないことから、この“死の谷”はかなり長くなる傾向にあります。そのことから、開発を途 中で断念してしまうベンチャー企業が多いのが現実です。

この問題を解決する策の一つが、副次的ないし中間的商品の開発です。大学発のベンチャー企業には、上図の左側のように教官(発明者)が起業後も関与しているケースと上図の右側のように教官(発明者)・TLOなどが技術を新しい企業に移転させているケースがあります。当社は左側のケースです。左側(教官が継続関与)のケースでは、特許化された技術の他に暗黙知と呼ばれるような技術も教官から提供を受けやすいという要因もあり複数の商品を開発することが可能となります。右側(大学より技術を移転)のケースは、特許化された技術のみの移転に留まり、技術の多元的な発展には限界があります。左側のケースは、主力商品の技術とは関係のない関連商品(副次的商品)の開発 が可能です。右側のケースでは、主力商品の技術を用いた関連商品(中間的商品)の開発のみ可能です。特に左側のケースのように多くのアイデアからマーケット性なども勘案した商品を開発することが、よりベンチャーの経営を安定させると考えられます。

勿論、体力のないベンチャー企業に複数の商品の開発は無理という考え方もありますが、複数事業を一部のベンチャー企業は行っているという調査結果もあります。このような議論が、日本よりも活発に行われている欧米の関係者の考えを調査してみました。オーストリアでの日米のベンチャー企業をテーマとした講演 (写真)の帰路に面談した、ドイツ(ベルリン工科大)、イギリス(ケンブリッジ大)、 アメリカ(MIT)の産学連携関係者の意見によれば、同じ基幹技術から派生した副次的・中間的な事業を展開することは、技術面で効果的な上、経営を安定化させる効果が高いとの評価を得ました。

このつなぎ商品の開発を資金繰りが苦しくなってからするのではなく、むしろ計画的に経営の安定化のために実施し、知的財産権の構築と財務戦略を全社的に実施することが重要です。

つまり、大学発のベンチャー企業の場合、市場と技術内容にもよりますが、極力、教官(発明者)が創業後も関与して、図4の左側のように暗黙知の提供を受 け、全社レベルの計画的な経営戦略により、小型でも事業化が速く売上が直ぐに見込めるような事業を主力事業と同時に展開することにより、経営の安定を図る ことを積極的に検討すべきと考えます。そのことにより、“死の谷”を短くすることができると考えられます。










当社スタッフ



  Profile
せきみず のぶかず 昭和27年生。慶応義塾大学商学部卒。多摩大学大学院経営情報学科修士課程修了。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了・後期課 程修了単位取得。東京大学大学院工学研究科MOTコース修了単位取得。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。㈱三井住友銀行ビジ ネス営業部部付部長、持田商工㈱法務部長など歴任。税理士。平成12年株式会社ゲノム創薬研究所を創業。