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掲載機関:大阪大学 大学院工学研究科  掲載日:2012/06/13

環状オリゴ糖‘シクロデキストリン’化学の新展開


 木田 敏之

 大阪大学大学院工学研究科
 応用化学専攻 分子創成化学コース 分子相関化学領域 教授

 Address: 〒650-0047 大阪府吹田市山田丘2-1
 URL: http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/appl/course/molecular/course03.html
 



シクロデキストリンとは
 シクロデキストリン(CD)は、デンプンに酵素を作用させて得られる、植物由来の環状オリゴ糖です。グルコースがα-1,4 結合で環状に連なった構造をとっています(図1A)。特に、6、7、8個のグルコースがつながったものが代表的で、それぞれα-、β-、γ-CDと呼ばれています。CDはドーナツのような形をしていて、内径0.5~0.9 nmの疎水性の空孔をもち、この空孔の形と大きさに適合する分子を取り込む性質(包接能)があります(図1B)。また、取り込んだ物質を特定の刺激により容易に放出することもできます(放出能)。このCDの物質包接能と放出能は、食品、医薬品、化粧品など様々な分野で利用されています。



図1.(A)シクロデキストリン(CD)の化学構造と模式図. (B)CDによるゲスト分子の包接と放出の模式図


(1)    ゲスト分子の構造に合わせた空孔をもつ環骨格変換CDの開発
 先に示したような優れた機能をもつCDでも、ゲスト分子の形・大きさに合わせた柔軟な分子の設計が困難と考えられてきたことから、適用できるゲスト分子の種類は比較的限られていました。我々は、この点を克服しCD用途の飛躍的拡大を図るために、CDの環骨格にスペーサーを挿入するという斬新な分子設計法を考案し、それに基づいて空孔の形・大きさを自在に制御できるCD誘導体を簡便に合成することに成功しました(図2)。この‘スペーサー挿入CD’は従来のCD誘導体では発現できないユニークかつ優れた包接挙動を示すことがわかりました。さらに、‘環結合変換CD’の簡便合成にも成功し、これまで包接困難とされていたポリアクリル酸などのゲスト分子の包接が実現できることを見出しました。


図2.ゲスト分子の構造に合わせた空孔をもつ環骨格変換CDの合成


(2)    オイルや非極性溶媒中での包接錯体形成
 CD空孔内へのゲスト分子の包接はこれまでほとんどの場合が水中で行われており、油や非極性溶媒中でのゲスト分子包接はきわめて困難であると考えられ、実現されていませんでした。我々は、適切に化学修飾したCDが非極性溶媒中のゲスト分子を効果的に包接できることを世界で初めて見出し、それを吸着剤に用いることで、絶縁油中に微量混入しているポリ塩化ビフェニル(PCB)を選択的に吸着除去できることを明らかにしました。さらに、この吸着剤をカラム内に充填し、その中をPCB汚染オイルが通過するシステムを組むことで、汚染オイル中のPCBを効率的に分離濃縮することにも成功しました。毒性のPCBが混入した絶縁油は現在我が国で大量に(50万トン以上)保管されており、適切な処理方法の開発が急務となっています。我々が開発した技術を用いることで、大量の汚染オイルから短時間で環境に負荷を与えずにPCBを分離濃縮できると考えられます。本技術は、我が国で大量に保管されているPCB汚染オイルの全廃に大いに貢献できると期待され、本技術の早期実用化に向けて研究に取り組んでいます。


図3.オイル中のPCBとCD誘導体との包接錯体形成


(3)    シクロデキストリン超分子構造体の創製と機能

 CDは結晶中で、かご型、チャンネル型、層状型の3種の集合様式をとることが知られています。我々は、Tonelliらにより開発された方法(A.E. Tonelli et al., Langmuir 2002, 18, 10016.)を参考にγ-CDのチャンネル型集合体(γ-CDchannel)を調製し、その走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行ったところ、1辺数µmの形の揃ったキューブ状構造体が形成されていることを発見しました。また、γ-CDchannelを調製する際の条件を変化させることで、様々な大きさのマイクロキューブを作製することに成功しました(図4)。これらの構造体の油に対する分散安定性は単独のCD分子よりも格段に高く、油ならびに有機溶媒を室温で簡単にゲル化できることがわかりました。


図4.種々の形態をもつCD超分子構造体の作製