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掲載機関:Japanest NIPPON   掲載日:2013/01/16

新しい再生医療の開拓者-iPS細胞研究【京都大学 山中 伸弥】

山中 伸弥
京都大学iPS細胞研究所

Contact
Address: 〒〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53
URL : http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/yamanaka_group/


再生医学や多くの難病治療に革新をもたらしつつあるiPS細胞。その研究動向には多くの人々が期待を寄せ、一日も早い実用化が待たれています。

2013年現在、網膜の加齢黄斑変性症の患者に対して、iPS細胞由来の網膜細胞を移植する臨床研究が始まろうとしています。これは、iPS細胞臨床応用の第一号です。2012年のノーベル賞受賞によって、iPS細胞に対する注目度はさらに加速し、今後多くの研究予算が投じられることも報道されていますが、だからこそ、この潮流を逃さず、着実に研究を進めていかなければなりません。

引き続き多くの人々がiPS細胞や再生医療などに興味を持つことで、将来この分野を担う優秀な人材が後に続いていくとともに、多くの人々から医療の未来を革新するこの分野に支援の手が差し伸べられることが期待されています。


定義
iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、非常に多様な細胞に分化できる分化全能性 (pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞です。このiPS細胞に関する研究は、再生医学にとって最も重要な研究と位置づけられ、現在も世界がしのぎを削っています。

2006年にマウス由来のiPS細胞が初めて樹立された時点では、ウイルスの一種を運び屋にして遺伝子を細胞に導入する方法で作製しており、ウイルスが遺伝子を細胞の染色体に入り込ませるため、もとからある遺伝子を傷つけてがん化させる危険性が危惧されていました。またこのiPS細胞の制作効率も大変低いもので、体細胞10万個あたり、0~2個でした。

しかし、細胞内で短期間に分解される「プラスミド」というリング状のDNAに、四つの遺伝子を運ばせて、iPS細胞を作る手法を開発し、がん化の危険性を軽減することに成功。さらに従来の約30倍の効率で、制作もできるようになりました。この成果は、2011/04/04付のネイチャー・メソッド電子版で発表されています。

背景
ではこのiPS細胞、私たちにとって、どのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか?
まずは再生医療のメリットを考えてみましょう。

通常、多細胞生物は、個体、器官、組織、細胞、というようにそれぞれが構成単位から形成されています。例えばヒトは、成人では60兆個もの細胞から構成されているといいいます。そして、その60兆個の細胞は、神経細胞、ヘルパーT細胞、骨芽細胞・・・など、200種類もの違ったタイプに分類する事ができます。ヒトのこれらの細胞は、タイプが違うとその機能も異なるのは当然で、違うタイプの細胞の代わりを果たすことはできません。またタイプの違いの壁をこえて他のタイプの細胞に姿をかえることもできません。

そこで、ある臓器の一部を損傷したり、機能不全を起こした場合には、生体間移植や人工臓器を体内に埋め込むといった治療方法が従来よりなされていました。
しかし、これらの方法では、立ちいかなくなるのは当然です。すなわちドナーの数がきわめて限られていること、自分以外の他人の細胞・臓器では拒絶反応を引き起こすこと、実際の生体臓器ほど精巧な人工臓器の作成ができていないこと等、今なお課題が多いのです。

そこで、注目されているのが、これまでの医療を根本的に変革する可能性を有する再生医療です。すなわち人工的に培養した細胞や組織を用いて、病気やけがなどによって失われた臓器や組織を修復・再生するのです。


iPS細胞以前と以後
従来の医療にくらべると格段に多くのメリットをもたらしてくれる再生医療。その中でもiPS細胞が最重要とされるのはなぜでしょうか?

iPS細胞以前には、分化全能性と自己複製能を持たせた細胞としてES細胞(胚性幹細胞Embryonic stem cells)が研究されていました。
政府方針として倫理上の厳しい規制がある中でも、京都大学の中辻憲夫教授が最初に、受精した胚からヒトES細胞の株の作成方法を樹立(2003年)するとともに、ヒトES細胞株の分配体制を確立しました。
このES細胞は、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株のことで、医療への応用が期待されていましたが、ここでもやはり拒絶反応の問題やヒト胚を壊さなければならないという倫理上の問題があり、実用化は難しいと思われていました。

そこで登場したのが、iPS細胞です。iPS細胞は、成人皮膚由来の線維芽細胞から樹立できます。生命の萌芽である胚を破壊するという倫理的問題や移植後の拒絶反応の懸念が少ないため、細胞移植療法の資源として多くの人から期待されています。さらにヒトiPS細胞は薬剤の安全性評価などに利用できるなど様々な方面での応用も進んでいます。


iPS細胞研究の発展に向けて
京都大学iPS細胞研究所では、遺伝性あるいは原因不明の難治性疾患に悩まされている患者由来の疾患特異的iPS細胞を樹立し、今までは入手困難であった組織に分化させて in vitro系での病態解明を推進しています。加えて、疾患特異的iPS細胞を用いての薬剤探索研究にも着手し、新たな治療法や新薬の開発も進んでいくでしょう。

この分野では世界がしのぎを削る激しい競争をしています。世界レベルでの特許申請競争も激しくなっています。
2006年に開発した世界で最初のiPS細胞の特許は、2011年1月にアメリカの企業から京都大学に譲渡され、2011年8月には欧州特許庁へも登録されていますが、京都大学はさらに英独仏など主要欧州17か国において、特許登録をする予定です。この特許は、今後発見されるものでも構造が似通っておれば、類似因子(ファミリー)として認められる内容です。 今後も、学問の進歩と新技術の開発により、益々特許競争が激しくなるでしょう。

日本がこの研究で名実ともに世界のリーダーとなるためには、資金と環境が充分に満たされなければならなりません。それが、この研究が多くの人々に貢献するための絶対必要条件なのです。