HOME > 学術出版物 > zenis 日本の学問と研究 創刊号 > 現象数理学の形成と発展 【明治大学グローバルCOEプログラム】

現象数理学の形成と発展 【明治大学グローバルCOEプログラム】

ロゴ お問い合わせ
明治大学 先端数理科学インスティテュート
教学企画部グローバルCOE推進事務室
〒214-8571 神奈川県川崎市多摩区東三田1-1-1
TEL: 044-934-7661
E-mail: gcoe[アットマーク]mics.meiji.ac.jp
URL: http://gcoe.mims.meiji.ac.jp/





数学と諸科学の具体的融合を目指すグローバルCOE(Center of Excellence)を目指して
写真 我々を取り巻く社会には、変動しながら発展していく複雑なシステムが多様に存在しています。これらのシステムの共通点は、要素の数が非常に多いというだけでなく、それらが複雑に絡みあっていることです。実験、観測技術の急激な発展により、システムから精緻で大量のデータ収集が可能になり、構成する要素の正体が明らかになってきましたが、データの膨大さ、要素間の複雑な絡みが、システムの生み出す現象の解明において大きな障害になっていると言って良いでしょう。この困難さを打ち破ることは、21世紀の数理科学に課せられた重大な使命であると考えています。その鍵は、現象解明の根幹となるモデル構築の新たな展開であり、これまで様々な分野で用いられてきた現象を忠実に捉える定量モデルをみすえつつ、現象の本質を見抜き、理解するという抽出モデルの構築が必要です。
今回のグローバルCOEプログラム『現象数理学の形成と発展』は、現象の本質を見抜き、理解する抽出モデルの構築を柱とする現象数理学の拠点を形成し、その発展を目指すものです。この展開は、社会への貢献のみならず数学界へフィードバックすることから、現代数学の裾野を広げ、社会に目を向けた数学の確立へとつながるものと確信しています。

拠点の概要 -現象数理学の形成を目指して-
生物の進化に見られるように、不確定なゆらぎを経て自己組織化しダイナミックに変化しながら発展していく複雑なシステムは、生物界のみならず発展する社会や変化する自然界においても現れます。これらの背後に潜む強い非線形性が次第に明らかになり、同時に膨大なデータ(情報)の収集も可能となった現在、このようなシステムを解き明かし理解することが、いま数理科学に託された緊急課題です。その解決の鍵は、モデルの構築とその数理解析的方法論に重点を置いた、現象解明を明確なミッションとする現象数理学の革新にあります。本拠点では、本大学の附置研究機関である先端数理科学インスティテュート(以下「MIMS」)を教育研究の基盤とし、社会、自然、生物の複雑現象の研究に焦点をしぼります。そして、これまで様々な分野で用いられてきた現象を定量的に再現することを目的とした忠実モデルを見据えつつも、現象の本質を見抜き理解する抽出モデルの構築を必要とする新しい現象数理学の形成を目的としています。
本グローバルCOEプログラムではMIMSを教育研究の基盤として、連携大学院である広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻、連携先機関である海洋研究開発機構・地球シミュレータセンターと相補融合し、現象数理学の方法と技術を習得した人材を輩出することを目指し、さらに、海外研究機関と連携し、国内外から優れた人材を集め、国際的な教育研究拠点の形成を目指します。

図1


スペシャリストの育成
現象と数理の間に「架け橋」を構築できる力を持った人材は、世の中にまだ不足している状況です。そこで本グローバルCOEプログラムでは、MIMSが培ってきた強固な研究基盤をもとにしてMIMS Ph. D. プログラムを実施し「現象と数理の掛け橋となるユニークなスペシャリスト」を育成します。

MIMS Ph.D.プログラム(グローバルCOEプログラムによる博士後期課程学生の教育制度)
MIMS Ph.D.プログラムは、現象のモデル構築を通じて、複眼的視野や問題発見能力、問題解決能力、および数学と諸科学の融合を目指す現象数理学的思考と技術を身に付けた若手研究者育成を目的としています。生命・生物現象を主とする「非線形非平衡系コース」、経済・金融・自然現象を主とする「非線形時系列コース」を開設し、以下の横断教育プログラムと実践プログラムを段階的に学んでいきます。

現象数理学「横断教育プログラム」
-現象のモデリングに関する基礎技術と数理解析技術の習得-
大学院・プロジェクト系科目「先端数理科学インスティテュート科目群」
MIMSにおける最先端の研究成果を学生に教授することにより、各自の研究に新たな展開・刺激を与えます。
大学院・研究科間共通科目「国際系科目群」
英語表現能力を強化し国際的に通用する研究者の育成を目指します。
提案型研究(オプションカリキュラム)
在学中の数ヶ月間、広島大学大学院への国内留学(研究指導委託)を実施し、学生自身で研究課題を企画・立案し、その成果を報告します。
単位互換協定他大学院(広島大学・龍谷大学)設置科目
単位互換協定を結んでいる他大学院設置科目を履修することにより、学問の幅を広げ、さらには他大学院の若手研究者との人的な交流、相互理解等シナジー効果が期待されます。
現象数理学「実践プログラム」
-実践体験の蓄積・拡充、課題の発見と問題意識の醸成-
MIMS研究指導プログラム
各学生に「数学と諸科学の融合を実践する現象数理学」を習得させるため、融合的な研究指導を行なうプログラムです。現象数理学に関連した最先端分野で活躍しているMIMS所員・研究員が、現象数理学の基軸となる「数理解析」「シミュレーション」「モデリング」の各グループに分かれ、それぞれのグループからテーマに応じ1名を選出、計3名の「研究指導チームフェロー」で研究指導にあたります。

MIMS若手研究者育成プログラム
助教・PD等若手研究者を対象にしたプログラム
・国際現象数理学スクールの開催:国内外から優れた数理科学者を招聘し、最先端課題の解説と導入を行うスクールを開催します。
・現象数理若手プロジェクトの公募:本学若手研究者がコーディネーターとなり、現象数理学に関連する他分野の研究者を加えたプロジェクトを立案・実施し、研究者としての自立を図ります。
・MIMSと協定を交わした国内外他研究機関との研究交流:国際交流経験の蓄積および国際研究集会での成果発表とこれを踏まえた研究交流による当該研究の飛躍的発展を目指します。

支援体制
明治大学は、研究者養成型助手、PD・RA制度、若手研究費などの支援体制が整備されています。グローバルCOEプログラムではこれらを有効活用するとともに、さらに以下の支援体制を設け、教育研究環境を強化しています。
MIMS Ph.D.プログラム学生
・グローバルCOE博士課程研究員(博士後期課程学生対象):日本学術振興会特別研究員DCと同等の待遇で本学が雇用します。
・学費免除(給費奨学金制度):入学後3年間の学費【入学金(初年度のみ)・授業料・実験実習料】を奨学金として免除します。
ポスト・ドクター
・グローバルCOE‐現象数理SPD:研究者としての自立および現象数理学の研究を推し進め、成果を世界に向け発信することを任務とします。(日本学術振興会特別研究員SPDと同等の待遇)
・グローバルCOE‐現象数理PD、MIMS PD、大学法人PDの3タイプの雇用制度があります。
若手研究者
・現象数理若手プロジェクト:異分野とのコミュニケーション能力向上、失敗を恐れず研究を推し進める能力の創発を図ります。(100万円以内×5テーマ以内/年)

図2


研究-現象数理学の発展-
生物の適応性、ニューラルコーディング、細胞インテリジェンス、形態形成などミクロな現象から、パニック時の群集行動、生命医学、地震予知、異常気象、人と社会のネットワーク、経済変動などマクロな現象までを対象とした現象の理解は、自然科学、社会科学の分野において重要なテーマです。
本教育研究拠点は、それらのテーマを数理科学の分野に持ち込み、その解明とモデル構築を柱とした現象数理学から行います。具体的には、非線形性、複雑性、組織化、異常性などを念頭におきながら次の2つを課題としています。

(a) 非線形非平衡系の現象数理学の発展
社会、自然、生物系に現れる様々な非線形非平衡現象を対象とし、非線形性、組織化、開放性の視点から本質を抽出するモデルを構築し、その数理解析を行うことから現象数理学の発展を目指します。
(b) 非線形時系列に対する現象数理学の発展
経済、工学、磁気圏、地震、生命医学等の複雑な現象に現れる非線形時系列を対象とし、時系列の異常の前兆を捉え、時系列の本質を抽出するモデルを構築します。一例として、リスクマネジメントなどで地域社会や国の政策決定に貢献できる方策などを提言します。

グローバルCOEプログラムの事業推進担当者は、全員MIMSの所員であり、なお且つ拠点リーダーのリーダーシップのもとで強力な連携体制が構築されています。

本拠点では研究課題の遂行のため、現象と数理を広く捉えることを可能にする協力・連携体制を整備しており、研究課題の遂行は次の3研究班の共同作業によって行われます。

図3 モデリング班
生物現象に関わるメンバーは、実験家・フィールド研究者や数学者との共同研究の経験・実績を有しています。社会現象に関わるメンバーは、経済と工学の分野で現象の再現に重点をおいたモデル構築とそのモデルに基づく実証研究に優れた成果をあげています。
数理解析班
数学・応用数理学の分野で極めて高い水準の教育研究活動実績を持つと共に、他の二つの班を支援できるメンバーが揃っています。
シミュレーション班
計算機シミュレーションおよび可視化法の専門家だけではなく、現象・モデリングを理解し、高度な計算機技術を持ちあわせています。


身近にある現象数理学の事象
バクテリアのコロニー形成
バクテリアは食べ物を腐らせたり、病気を引き起こしたりすることから怖い存在として知られていますが、我々の生活にも役立ってもいます。身近なものに、ヨーグルトとなる乳酸菌や納豆菌、我々の腸内に住んでいる大腸菌があります。バクテリアは栄養源を取って成長し、細胞分裂を繰り返すことでその数を増やし、やがて密集したコロニーを形成します。バクテリアの中で納豆菌の親戚のような枯草菌は、栄養源が少なく、動きにくいという劣悪な環境条件になると、栄養源との接触となる境界を出来るだけ長くするように、コロニーの形は非常に複雑な形状をとります(図1)。脳や神経細胞を持たない枯草菌が、その数が多くなると、少ない栄養源を出来るだけ効果的に取れるように、どうして複雑な形状をとることができるのでしょうか。この問題に対しても、数学モデルがその仕組みの解明に貢献しています(図2)。以上のように、その場面に登場している要素の数が多くなると、不思議な現象が現れるということです。このような現象は、この他にも、自然、社会、経済等などのさまざまな分野においても現れます。我々を取り巻く複雑で不思議な現象を解明するという現象数理学をさらに発展させ、明治大学において「社会に貢献する数理科学」の確立を目指します。

図4 図5
【左図】 劣悪な環境条件下で枯草菌を示す樹枝状コロニーパターン
【右図】 同じ条件下で数学モデルが示す樹枝状コロニーパターン


本グローバルCOEプログラムでは、現象数理学の国際的な研究拠点になるとともに、高度で幅広い数学的素養を身につけ、複雑現象に対して、その中に潜む本質を見抜く能力と、数理科学的技術を身につけた若手研究者を育成し、社会に送り出す事業も展開します。その成果は、複雑化する21世紀社会に貢献する数理科学の発展へとつながります。さらに、数学界へのフィードバックにより、現代数学の新たな発展と裾野の拡大を促し、数学から社会への掛け橋となるものです。私達は、関連する研究機関と密接な国際的研究ネットワークを構築し、研究交流を推進しながら、現象数理学の世界的拠点となることを目指します。

図6