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ABCタンパク質研究による生活習慣病予防薬の開発 【京都大学 植田和光】

植田 和光 教授 植田 和光 教授
京都大学 物質-細胞統合システム拠点/大学院農学研究科応用生命科学専攻

〒606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町
http://www.biochemistry.kais.kyoto-u.ac.jp





我々の研究室では、ヒトの健康維持に重要な役割を果たしているABCタンパク質ファミリーの生理的役割、作用機構を研究しています。ABC(ATP-Binding Cassette)タンパク質は、類似のATP結合ドメインと複数の膜貫通へリックスをもつ膜タンパク質ファミリーで、微生物からヒトまで多くの生物において重要な役割を果たしています。ヒト染色体上には48あるいは49種類のABCタンパク質遺伝子が存在しており、それらの異常はいろいろな疾病を引き起こします。それらの疾病には、高脂血症、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病とともに、老人性の失明、新生児呼吸不全、皮膚疾患、免疫疾患、神経変性疾患などが含まれます。これらの疾病の予防や治療のためには、ABCタンパク質の機能や制御機構を解明することが必要です。しかし、ABCタンパク質は巨大な膜タンパク質であるため研究が難しく、機能や制御機構には未解明な点が多く残されています。

多くのABCタンパク質が体内のコレステロール恒常性に関与しています。コレステロールは、膜の構成成分、ホルモンや胆汁酸の前駆体として動物にとって必須の化合物ですが、細胞内に過剰に蓄積したコレステロールは毒性を示し、動脈硬化などさまざまな疾病を引き起こします。細胞で余剰となったコレステロールはいわゆる善玉コレステロール(高密度リポ蛋白質:HDL)として肝臓へと戻されます。このHDL形成は肝臓・副腎以外の細胞のコレステロールを減少させる唯一の経路であり、血清HDL量の低下は動脈硬化の第一のリスク因子です。ABCタンパク質であるABCA1とABCG1は細胞内の過剰のコレステロールを血中に排出し、HDL形成を促進します。ABCA1やABCG1の働きを活性化することができれば、動脈硬化などを予防できる可能性があります。

我々は、癌の抗癌剤耐性に関与する薬剤排出トランスポーターMDR1を世界で初めて発見して以来、20年にわたってABCタンパク質の研究を展開しています。ABCタンパク質の機能、制御の分子機構を明らかにし、それらを調節できる食品成分や化合物を探索することによって、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立つ化合物の開発につなげたいと考えています。


図1

多くのABCタンパク質が体内の脂質恒常性維持に重要な役割を果たしている。
ABCタンパク質の働きを食品成分や化合物で活性化できれば、動脈硬化などさまざまな疾病を予防できる。