HOME > 学術出版物 > zenis 日本の学問と研究 創刊号 > 液晶フォトニックデバイス|バナナ形液晶の科学と応用 【東京工業大学 竹添秀男/石川謙】

液晶フォトニックデバイス|バナナ形液晶の科学と応用 【東京工業大学 竹添秀男/石川謙】

竹添 秀男 教授 竹添 秀男 教授 / 石川 謙 准教授
東京工業大学 大学院理工学研究科
有機・高分子物質専攻 ソフトマテリアル物理分野

〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1
http://www.op.titech.ac.jp/lab/Take-Ishi/





竹添・石川研究室では有機物、特に液晶を主に物性、機能の観点から研究している。我々はこれまで反強誘電相とその副次相(1989年)、バナナ形液晶相(1996年)などを発見し、これらは、現在、液晶の科学の大きな分野を形成するに至っている。液晶の応用といえばディスプレイだが、ディスプレイ以外の応用も積極的に進めている。特に、液晶の周期構造を用いたフォトニックデバイスはそのひとつである。液晶以外にも電子機能、光機能をもった有機物も数多く手がけている。これらの中から2つの研究を紹介する。詳しくは研究室ホームページを参照いただきたい。
http://www.op.titech.ac.jp/lab/Take-Ishi/

1.液晶フォトニックデバイス
図1 液晶は自発的に様々な周期構造を形成する。たとえば、コレステリック液晶では、らせん状に分子が配列する。このらせんが光学波長程度の周期を持つとき、液晶自体の持つ誘電的な異方性により、誘電体多層膜構造と同様に1次元フォトニック効果を示す。通常、フォトニック構造を作るためには、ナノメートルオーダーという微小スケールでの加工技術が必要となるが、コレステリック液晶のらせんは自発的に形成されることに加え、その周期は添加物や温度・電場などにより容易に制御できるため大がかりな加工は必要なく、この点で大きな利点を持つ。
コレステリック液晶にレーザー色素を添加し励起させると、発光の閉じこめが起こりスペクトルの狭線化が起こる。我々の研究室では、これを利用した有機レーザー発光デバイスの研究を行っている。最近では低分子拡散法による空間変調構造の作成とその固定化により可視全域にわたる発振波長チューニングに成功している。また、後述のRGB反射板に色素を導入し、RGBの同時レーザー発振に成功している。今後は連続レーザー発振や電流注入型デバイスなどの実現を目指す。
本研究室ではこれまで、上記レーザー発振以外にも、コレステリック液晶とネマチック液晶の組み合わせによる、片側からしか光が透過しない光ダイオードや、1ピッチ程度の薄いコレステリック薄膜ごとに等方的な欠陥層の導入によるRGBの同時(白色)反射膜の作製に成功している。また、アゾポリマーの光誘起周期構造を転写することにより周期構造を形成し、その上に有機ELデバイスを形成し、光取り出しの効率向上を実現している。有機ELデバイスに上記コレステリック液晶フィルムやネマチック液晶層を導入することでロスの少ない発光の偏光制御にも成功している。








2.バナナ形液晶の科学と応用
「く」の字に曲がった屈曲形液晶は1930年頃にVorländerによってすでに合成されている。しかし、液晶には向かない分子ということで、長い間、興味の対象にはならなかった。日本では1993年に松永らによって合成されたが、その時には液晶性の報告のみであった。しかも、一方、CladisとBrandは反強誘電性液晶の電気光学応答の論文中で、C2vの対称性を持つ、SmCP相のモデルを提示している。これが現在最も広く研究されているB2相類似の相である。しかし、このような研究にも関わらず、松永らのつくった液晶の物性を実際に測定してみる研究者はいなかった。同じ専攻の渡辺順次教授がこの液晶を我々の研究室に持ち込んだのはそんなある日のことであった。間もなく我々はスイッチング電流測定から極性を持つ液晶相であることを確認した。これが、バナナ形液晶との出会いである。ケント大学で行われた液晶国際会議(1996)で我々が発表すると、堰を切ったようにバナナ形液晶の研究が始まった。我々の最初の論文の引用件数は600件近くに上り、平均するとほぼ毎週1度引用されている勘定になる。
図2 バナナ形液晶の興味は多岐にわたっている。極性構造の観点から大切なことは、バナナ形液晶が不斉炭素を含まない液晶系での初めての強誘電性、反強誘電性相である点である。一方、バナナ形液晶は不斉炭素を含まないにも関わらずキラリティを発生させる不思議な性質を持っている。最近、我々は様々な方法でキラリティの制御に成功している。その他、従来の液晶系には見られない複雑な分子配列構造と層構造、特異な非線形光学効果などの基礎科学的な興味ばかりではなく、新しい高速液晶ディスプレイの可能性も秘めている。