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ホウ素中性子補足療法―がん治療法


概要

今回取り上げる「中性子補足療法」とは、放射線療法の一つでありBoron Neutron Capture Therapy (BNCT)とも呼ばれている。特に現在では治療の際にホウ素化合物をもちいるため、ホウ素中性子補足療法という呼称が用いられている。
現在医療機関で行われている最新の放射線療法の一つに粒子線療法があり、これらもがん細胞を選択的に照射することができる、患者の体へ負担が少ない治療法である。粒子線療法では、エネルギーを持った放射線を照射することでがん細胞を直接攻撃する。一方、中性子補足療法は、ほとんどエネルギーを持たない中性子線を照射し、がん細胞内で化学反応を起こすことで放射線を発生させる点が、大きな違いである。
中性子補足療法は、まず、がん細胞だけに集積する化合物を患者に投与し、その上で中性子線を照射することで行われる。そして、がん細胞に集積した化合物と、中性子線が細胞内部で核反応を起こし、粒子放射線を発生させる。この放射線ががん細胞を破壊するのだ。
このようにして、中性子補足療法は、人体に影響の少ない中性子線が正常な細胞を傷つけることなくがん細胞のみを破壊するため、副作用のない、患者への負担を各段に軽減する治療として注目されている。従来の放射線治療や粒子線治療では対応できない、悪性脳腫瘍や悪性黒色腫、さらに、再発乳癌や肝腫瘍、肺転移腫瘍の他、再発腫瘍・多発腫瘍への適用が可能になるとされている。

 中性子補足療法は当初、アメリカにより研究が進められていたが、脳への強い傷害が多いことなど、生物学的、物理工学的課題が多く残ったことにより、医療機関による一般的な導入への実現化は失敗に終わっていた。一方、日本では1959年から研究が始まっている。特に1968年に東京大学脳神経外科の助手(当時)であった畠中 担(はたなか ひろし)はこの分野で精力的に研究を行い、日立製作所と共同で行った日本初の医療照射は、大きな成果を残した。これは当時のアメリカの治療実績を上回る結果であった。その後、治療時に投与される化合物として、ホウ素化合物が開発され、この化合物を用いた悪性脳腫瘍に対する13の臨床例を得た。現在、日本国内では更に研究が進み、脳腫瘍200例以上、悪性黒色腫においては30例の治療症例が集められ、治療の有効性を示す実績が重ねられてきた。また日本での成功を受け、1990年代から米国で研究が再開、EU諸国、ロシア、台湾など世界各国でも研究が始められるようになった。

 国内における研究は、実用化に向けた医療機器の開発にもおよんでいる。元来中性子補足療法は、がん細胞との核反応を起こさせる中性子を原子炉でしか発生させることが出来なかったため、病院内で治療を行うことが不可能であった。しかし、京都大学、筑波大学、住友重機工業、三菱重工などが小型加速器の開発を進め、現在では原子炉を使わずとも中性子を生成させることが可能になった。
京都大学の原子炉実験所では20年以上にわたって中性子補足療法の研究に取り組んできた小野 公二(京都大学名誉教授)と、住友重機械工業・化学会社のステラケミファが共同で、加速器中性子照射システムを開発、2012年9月に治験開始を発表した。このシステムは、医療の現場で専用機として活用できる世界初の装置である。
小型化することによって、起動操作の簡略化、放射線による被爆回避など、より高い安全性が確保された。また病院から原子炉へ患者を搬送する必要がなくなるため利便性も高まった。その他にも治療にかかる病院側のコスト軽減というメリットも見込むことが出来る。試算では、重粒子線や陽子線の装置を用いた治療が300万円ほどかかるところを、中性子補足療法では150万円程度におさえることができるという。この小型加速器の開発はBNCT療法の実用化への大きな一歩と言えるだろう。

2011年から、国立がん研究センターは、株式会社CICSと、世界初の病院内臨床研究を目指して共同研究を行ってきた。2014年には、BNCTシステムのための施設を設置し、システムを導入、性能試験を経て、2015年11月に原子力安全技術センターの施設検査に合格した。早ければ2016年度中に臨床試験が開始される。
京都大学チームが開発したシステムは、福島県郡山市の総合南東北病院で、頭頸部のがんの治療を目的に2016年から治験が開始されている。また、厚生労働省による先進医療としての認定を2018年度を目処に目指している。
また、2013年4月に、住友重機械工業は、政府と共同で、ロシア政府に医療輸出に関する提案を表明した。モスクワ市内に自社で開発した放射線治療設備を導入した病院を建設し、機器や人材を丸ごと輸出するというものであり、BNCTの導入も含まれている。2015年には、事業内容やスケジュールなどの合意事項をまとめ、日本及びロシアの代表団体がMOUを締結した。事業が進めば、海外で初となるBNCTの臨床実験が開始される。ロシアでBNCTの実用化が可能になれば、将来は欧米諸国にも設備の輸出を検討し世界に日本の医療技術を広めるきっかけになると、政府は考えている。

ライター:Azusa Kotaka, Hiromi Jitsukata
2016.03.30 各機関の取り組みについて加筆修正 
2013.08.22 執筆

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/
( 京都大学原子炉実験所 )
http://www.minamitohoku.or.jp/infobox/bnct.html
( 一般財団法人 脳神経疾患研究所 附属総合南東北病院 )
http://www.shi.co.jp/info/2012/6kgpsq0000001in0.html
( 住友重機械工業 お知らせ )
http://www.stella-chemifa.co.jp/chikenkaishi_20120906.pdf
( ステラケミファ株式会社 ニュース&トピックス )
京都大学・住友重機械工業共同開発・サイクロトロン(加速器)
スペック
AVFサイクロトロン 外部イオン源
加速粒子 H-
引き出し H+
加速エネルギー 30MeV

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