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Products (宇宙工学)

X線天文衛星 ひとみ(ASTRO-H)


概要

提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)

歴史をさかのぼれば、人類はまず肉眼や天体望遠鏡などを用い、可視光という限られた手段で観測を行っていた。その後、電波望遠鏡の実用化によって、様々な波長の電磁波を用いて宇宙を観測する手法が次々と登場する。そのひとつがX線天文学である。
宇宙空間におけるX線は、高いエネルギーが発生するところで生じている。宇宙のX線をを観測することで、宇宙空間にとてつもない大きさのエネルギーが存在していることが分かってきた。具体的には、「ブラックホールの周辺での高エネルギー現象」、「宇宙の様々な場所に存在している高温ガス」、「星の終焉を示す超新星爆発の残骸」等、可視光や赤外線による観測では発見できなかったであろう成果である。宇宙空間というのは光学望遠鏡によってとらえられる姿とはうらはらに、激しいエネルギーであふれた空間なのだ。
X線天文学は1970年代ごろから飛躍的に発展し、これまで予想もされていなかった宇宙の新しい姿を次々と解明している。現在の技術で観測できる宇宙空間の物質の80パーセント以上はX線でしか見ることができないものであることが分かっている。これらの現象は、宇宙の構造や進化を研究する上で重要な手掛かりとなる。
しかし宇宙空間で発せられるX線は、地球大気に阻まれ地表には届かない。つまり、地上からは観察できないため、大気圏外から観測する必要がある。したがって、X線天文学では、たくさんの衛星が宇宙空間に打ち上げられ、観測を行っている。

「ひとみ」(開発コードASTRO-H)は日本がうちあげた6番目のX線天文衛星である。JAXAが中心となって、NASAと共同で開発を行い、NASAの共同ミッション(SMEX MoO)にも採択されている。さらに、日本の28大学、欧米各国の23の研究機関に所属する約250名近くの研究者、国内外の企業が連携して進められた、国際宇宙プロジェクトともいえる。
日本がこれまで宇宙に打ち上げた5機のX線天文衛星は、世界的にも貴重な研究データを観測しており、今回も世界が日本のX線天文学に寄せる期待は大きい。
今後、世界に公開された天文台として、観測テーマの国際公募を行い、優れた提案に対し、観測時間が割り当てられる。さらに、すべての観測データは一定期間ののち、全世界に公開される。公開データまで含めると、ひとみは10年以上にわたり、全世界が共有する大型X線天文台と位置付けられる。いわば、人類の共有財産である。


宇宙を見つめる「ひとみ」
瞳とは日本語の”eye”、とくに” pupil”を意味する言葉である。また「瞳を書くことで絵の竜も空に飛び立つ(画竜点睛)」ということわざがあり、「物事を完成させるための最後の重要な仕上げ」の意味も持つ。X線天文学において、要となる成果をあげたいという願いが込められており、これまでの衛星をしのぐ最先端機器が搭載されている。

ひとみは、日本のX線天文衛星史上で最大のサイズで設計されており、それはすなわちより多くのX線を集められるということを意味する。さらに、より効率よくX線を集めるために、2種類の望遠鏡と4種類の検出器を搭載している。
これらの装置は、日本で開発された世界初の新技術や、これまでにはなかった全く新しい日本独自のコンセプトに基づき開発されている。我が国のX線天文学に関するこれまでの蓄積がここに集結した、世界でも先端をゆくX線天文観測衛星である。

搭載機器

軟X線望遠鏡SXT 2台
硬X線望遠鏡HXT 2台 焦点距離12m、日本独自のナノ技術を駆使して開発され、SXTでは集光できないエネルギー帯までのX線も集めることが可能。具体的には、軟X線望遠鏡の6倍のエネルギーをもつX線を集める。
硬X線撮像検出器HXI HXTによって集められた硬X線を、画像として記録する。硬X線の撮像分光観測は世界で初めてである。
軟X線分光検出器SXS :ひとみのもっとも特徴的な機器といえる。搭載されたX線マイクロカロリメーターは、従来の約30倍の精度でX線光子のエネルギーを測定することが可能。可視光に例えれば、これまで以上に「ほんの少しの色の違いをも見る」ことが可能になった。マイクロカロリメーターによる宇宙X 線の観測は世界初で、天体の運動、ブラックホール周辺の強い重力、各天体の放射する元素組成などに関し、これまでは測定できなかった精密なデータを得られることが期待されている。
軟X線撮像検出器SXI :これまでのX線天文衛星に搭載されたCCDカメラにおいて、最大となる38分角の広い視野を実現。SXSではカバーできない部分の撮像および分光を担う。
軟ガンマ線検出器SGD:日本が独自に提唱した「狭視野コンプトンカメラ」のコンセプトに基づいて作られた。この技術は、観測時のノイズを極限まで取り除くことを可能にしており、世界最高クラスの観測感度を実現している。

4種類の検出器によって、幅広エネルギー帯域での観測が可能になった。これは、先代のすざくの10倍から100倍もの感度で、従来は暗いとされていた天体もカバーすることを意味する。0.3keVから600keVと、3桁以上におよぶエネルギー帯での高感度観測はこれまでの観測史上で最高である。

搭載された機器と観測可能なエネルギー帯
図 搭載された機器と観測可能なエネルギー帯
(資料をもとに当社作成)

人類にとって、宇宙が謎に包まれている世界であるということは、太古から変わっていない。そもそも現時点で人類が宇宙についてどれほどのことを把握しているのかさえ明らかではない。一説では人類がわかっているのはわずか4%から5%であり、残りの95%以上は何も分かっていないという。だが、X線天文学は、宇宙に存在する多くのX線源をつきつめ、宇宙の姿を次々と明らかにし、そして、人類に進歩をもたらしている。
これまでよりさらに深く宇宙を見つめ、新たな宇宙の姿をすいこみ、私たちに教えてくれる新しいまなざし、それが「ひとみ」なのだ。

2016年3月26日、ひとみからの電波を正常に受信できないという事態が発生。その後、JAXAなどの調査で、ひとみに、人為的ミスを含む複数の要因から異常な回転が発生し、遠心力によって太陽電池パネルが機体から分離してしまった、と判断された。電力供給の役割を果たす太陽電池パネルを喪失した状態での復旧は不可能であり、2016年4月28日、JAXAはひとみの運用断念を発表。今後は、今回の異常に至った原因究明が徹底して行われる予定である。


ライター: Hiromi Jitsukata
2016.03.22 執筆
X線天文衛星 ひとみ ASTRO-H
打ち上げ
日時 2016年2月17日 午後5時45分
場所 種子島宇宙センター
打上げ ロケット H-IIAロケット
構造
質量 2.7 t (*日本のこれまでの科学衛星としては最大)
軌道
高度 約575km
傾斜角 31度

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