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宇宙ステーション補給機(HTV)「こうのとり」


概要

H-II Transfer Vehicle (HTV)は、日本が開発・運用する、国際宇宙ステーションへの物資補給機である。
地球の上空400kmを周回する宇宙ステーション、そこに滞在する宇宙飛行士のために、さまざまな物資を地上から輸送している。輸送される物資は、水や酸素、食糧など、人類の生存に欠かせない物資の他、ステーションをメンテナンスするためのバッテリーや交換部品、ステーションでの活動のメインである実験や研究のための材料や装置など、多岐にわたる。また、宇宙ステーションで不要になったものを搭載して地球に送り返され、大気圏突入時の熱によって焼却するというミッションも担っている。大切なものを運ぶというミッションにふさわしく、HTVは幸運を運ぶ鳥「こうのとり」の愛称で親しまれてきた。


日本の宇宙開発に「こうのとり」が運んだもの
HTVは、1995年から概念設計が開始され、1997年から実際の開発が始められた。開発にあたって、これまで日本のものづくりには皆無であった概念、「ワン・フェイル・オペ、トゥー・フェイル・セーフ(1FO: 1Fail Operative, 2FS: 2Fail Safe)」という概念がNASAから要求される。これは、「一つの故障が起こっても、性能は継続する。2つの故障が起こっても、安全が保てる」という、高い安全基準を達成するための概念である。当時の日本にとっては厳しい要求であった。この要求をクリアしなければ、日本はいつまでも国際的な宇宙開発競争の舞台に上がることはできない。逆にいえば、これは大きなチャンスであった。しかも、HTVはロケット(輸送系技術)、有人宇宙船、衛星、運用管制など、宇宙に関連するあらゆる技術の融合が求められる。HTVを成功させることは、日本の競争力を飛躍的に高め、世界に強烈なインパクトを示すことになる。何としても開発を成功させようと、担当者たちは奮起した。宇宙開発事業団(NASDA、JAXAの前身)と、三菱重工業や三菱電機、IHIエアロスペースといった大小100社程度の企業が連携し、試行錯誤を重ねる。そして、2006年にようやくNASAの設計審査をクリアした。1FO、2FSの概念に基づいた設計は、HTVの特徴の一つとなっている。
2009年9月11日(日本時間)、多くの関係者が固唾をのんで見守る中、ついにこうのとり*が種子島から巣立っていった。一週間後の9月18日には国際宇宙ステーションに到達し、ドッキングに成功した。
こうのとりが、日本に運んできたのは一つの種である。種は生長し、花開き、実をつけた。今、日本は国際的な宇宙開発における重要なパートナーとして輝かしい活躍をしている。
*正式には「HTV技術実証機」。当時はまだHTVに愛称は付けられていなかったが、その後、全国からの公募によって、2010年11月に「こうのとり」という名称が決定した。HTVは2号機からこうのとりの名前でよばれているが、さかのぼって、実証機をこうのとり1号と呼ぶこともある。


世界のスタンダードへ
HTVのもっとも画期的な特徴が、世界初の「ランデブー・結合システム」である。現在では、補給機と宇宙ステーションがドッキングする際の標準的な方式となっているこのランデブー・結合システムは、文字通り、補給機が宇宙ステーションとランデブーし、宇宙ステーションのロボットアームによって結合される方式である。補給機は、宇宙ステーションと同じ速度で並進しながら、ステーションの下方から徐々に接近していく。宇宙ステーションの真下10mのところまできたところで接近をやめ、今度はステーション内の宇宙飛行士がロボットアームで把持してドッキングさせる。
宇宙ステーションの下から接近することで、万が一補給機に問題が起こっても、重力の差のために簡単には衝突が起こらないことを想定している。
この技術は安全性が高く評価され、これ以降の新しい補給機において標準的な結合方式として採用されている。(ドラゴンやシグナスなど)

また、この方式によってドッキングするハッチは1.2m×1.2mの四角形をしている。従来の方式のハッチが直径0.8mであることに比べれば、より大型の装置などの搬入が可能である。特に、国際標準実験ラック、バッテリーなどの軌道上交換ユニットは、従来のハッチからは搬入できず、補給機ではなくスペースシャトルで輸送されていたが、スペースシャトルの退役に伴い、HTVが唯一の輸送手段となった。(2012年のドラゴンの登場により、現在の輸送手段は増えている)

輸送量の多さも、HTVの特徴である。プログレスやドラゴンの積載量は、2~3トンであるのに対し、実に6トンの荷物を運ぶことが可能である。レイトアクセスと呼ばれる、速達対応サービス*で輸送可能な物資の積載量も運用中の補給機の中では最も多い。また、輸送可能な荷物の種類にも特徴があり、先に述べた実験ラックは、現時点でもHTVのみが輸送可能である。また、船外用の荷物も、開発当時はHTVが唯一の輸送手段であった。HTVには、非与圧区画(暴露部)があり、例えば、有毒性があるため人が入る空間ではなく、ステーション外の宇宙空間に設置するものなどはここに搭載されて宇宙ステーションまで届けられる。
*通常は4か月前までに荷物が積み込まれるが、鮮度が重視される実験サンプルや生鮮食料品、ドッキング後すぐに取り出す必要がある荷物、直前に搭載が決まった物資などは、打ち上げの10日前から80時間前までに搭載することができる。

現在、HTVは、2019年のこうのとり9号までが予定されており、これ以降は、後継機HTV-X(仮称)に移行する。HTV-Xは、2016年から本格的に開発が始まり、2021年に実証機の打ち上げが予定されている。全体を効率化、軽量化することで、輸送量は増やしながら、輸送以外の目的を果たす機能、例えば、小型カプセルの回収、デブリの除去、観測センサの運用など、将来の様々なミッションへ発展する可能性のあるシステムも搭載することを目指す。



ライター:Hiromi Jitsukata
2016.12.20 執筆

おもな仕様
全長 約9.8m(メインスラスタ含む)
直径 約4.4m
質量 約10.5トン(補給品除く)
補給能力 最大約6トン(船内用物資:最大約5.2トン、船外用物資:最大1.5トン)
目標軌道(ISS軌道) 高度:350km~460km
軌道傾斜角:約51.6度
ミッション期間 ランデブ飛行期間:約5日間
ISS滞在期間:約45日間
軌道上緊急待機期間:約7日間