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細胞シート工学


概要

東京女子医科大学の岡野光夫教授が提唱する組織を再構築するための一つのアプローチの方法が、「細胞シート工学」である。 この細胞シートとは、簡単に言うと、細胞を培養してつくった薄い膜を患部にはり、ナノテクノロジーを通して、細胞・臓器の再生を図るものである。

もともと岡野は早稲田大学大学院で、高分子科学を専攻していた材料工学系の研究者であった。しかし医学との関連分野に関心をもち、医学部の助手となり、さらにその後ユタ大学(米国)薬学部のアシストタントプロフェッサー、東京女子医科大学助教授等を経ている。
そして現在東京女子医科大学の教授を勤める一方、医学・工学・薬学等幅広い分野で職務を兼務する。医薬・工学幅広い分野に精通する逸材である。この幅広いバックグラウンドにより、「細胞シート工学」の発想が生まれたのであろう。

細胞シート工学は今や、再生医療を飛躍的に進歩させる画期的な新技術として世界中から注目されている。この技術を以下で詳しくみていくことにする。


背景
従来身体の一部あるいはその機能が失われた場合、主な治療法は臓器移植や人工臓器だった。しかし、臓器移植ではドナーの数が決定的に不足しているため、必要としているすべての患者に臓器移植を行うこのは不可能である。他方、人工臓器においても生体の精巧な機能を完全に再現するには今後の研究成果に期待するしかない。


そこで、注目されているのが、ES細胞、iPS細胞といったいわゆる「万能細胞」を使う再生医療である。体の一部が死滅(壊死)してしまったり、外傷で失われてしまったり、またガンで正常な臓器や組織の働きが損なわれたりした際に、細胞を利用してその失われた機能を取り戻すこと(『再生』)をはかる医療である。この方法を使うと、臓器移植や人工臓器での課題をクリアすることができる。


再生医療のメリットはこれだけではない。ここ数年患者のQuality of Life(QOL)の向上を目的とした、個人に最適な個別医療を提供するオーダーメイド医療が求められている。
このオーダーメイド医療の中心的な役割を担うことになるのである。すなわち、患者自身の細胞を用いて、生体のもつ再生能力を積極的に利用し、機能障害・機能欠損に陥った組織、臓器の再生を図ることを可能にする。ここにでは移植後の拒絶反応が全くないという大きなメリットも存在する。


細胞シート工学
このように人間にとって大変有用な「再生医療」。日本はこの分野でも世界をリードしている。そして先にも述べたが、この再生医療を飛躍的に進歩させる画期的な新技術がここで紹介する「細胞シート工学」という技術なのである。
では、「細胞シート工学」とはいったいいかなるものか?


我々ヒトをはじめとした動物の組織・臓器の基本構成要素を、ひとつひとつバラバラの「細胞」ではなく、細胞-細胞間および細胞-細胞外マトリックス間が連結した「細胞シート」としてとらえることができる。「細胞シート」は動物のからだの基本単位なのある。そのうえで、生体内の組織構造を模倣した三次元構造の再構築を追究するものが、「細胞シート工学」なのである。つまりからだの患部にシートをはって、組織・臓器を再生させていくのである。


では、その「細胞シート」をどうやって作製しているのか?
岡野教授の研究室では、温度によって培養皿表面の性質が親水性/疎水性に変化するインテリジェント培養皿「温度応答性培養皿」が開発され、この培養皿を使って種々の細胞シートを作製することに成功している。


従来の細胞回収法ではトリプシンなどのタンパク質分解酵素で細胞-細胞間、細胞- 細胞外マトリックス間のタンパク質は分解し、細胞はバラバラになり、シートとして回収することができなかったことを考えると、インテリジェント培養皿「温度応答性培養皿」開発による成果は画期的である。


岡野教授の技術は、ベンチャー企業のセルシード社の製品に活かされており、彼自身同社の取締役を勤める。同社では様々な事業展開を図っている。


事業展開
角膜再生上皮シート
ヒトの角膜の上皮と呼ばれる部分のさまざまな疾患を治療することを目的として研究開発を行っている再生医療医薬品パイプライン。現在、「角膜上皮幹細胞疲弊症」を適応症とした治験をフランスで実施しており、並行して事業化準備を推進している。

心筋再生パッチ
根本的な治療法が確立されていない心疾患(虚血性心疾患、拡張型心筋症など)の治療を目的として研究開発を行っている再生医療医薬品パイプライン。現在大阪大学において拡張型心筋症を適応症とした臨床研究が実施されており、第1例患者が補助人工心臓を外して退院されるなどの成果を得ている。

食道再生上皮シート
食道上皮にできた癌を除去した後に起きる炎症反応と食道狭窄※を抑制、防止することを目的とした再生医療医薬品パイプライン。現在東京女子医科大学において実施されている臨床研究では、食道上皮の再建、炎症反応の抑制、食道狭窄の防止などに良好な効果が見られている。
※ 食道狭窄 : 食道の一部が狭くなった状態。食物を飲み込むときの障害や嘔吐(おうと)などの症状がある。癌(がん)、潰瘍(かいよう)の瘢痕(はんこん)などによって起こる。

歯周組織再生シート
歯周病によって失われた歯周組織の再生を目的とした再生医療医薬品パイプライン。現在、共同研究先において臨床研究開始へ向けた準備が進められている。

実績
【角膜の再生】
大阪大学眼科学教室の西田幸二講師(現在教授)、故田野保雄教授らとの共同研究により、患者自身や親族の角膜上皮幹細胞を採取し、温度応答性培養皿上で培養して細胞シートを作製することで、これを損傷した眼に移植する細胞シート移植法を開発。さらに、両眼性疾患の患者には、口腔粘膜の上皮細胞シートを作製・移植する方法も確立した。
すでに本法のヒトへの臨床応用が開始されており、2005年の段階でこれまでに施行した12症例において良好な臨床経過を得ている。さらに2010年西田教授のグループでは、iPS細胞から角膜上皮細胞シートの作製に成功している。

【大阪大学医学部付属病院 澤教授らのグループ】
2007年に「自己骨格筋芽細胞シート1 件を用いた心不全治療」世界で初めて成功させた。初成功のときの患者は補助人工心臓をつけていたが、以来、補助人工心臓をつけていない(拡張型の)患者でも成功し、今回の補助人工心臓をつけていない患者2人を含め累計8人を治療している。
細胞シートは、患者自身の太ももの筋肉細胞を培養してシート状にする。シートは直径3~4センチの円形だ。これを4層に重ねて心臓の5、6か所に特殊なノリ状のものをつかって貼り付ける。
その後、シートから分泌されたたんぱく質などが心筋の再生を促し、2人とも日常生活ができるまでに良くなった。シートが心臓の細胞と一体化するわけではないが、取り除く必要もない。

【理化学研究所再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム】
2011年2月高橋政代チームリーダーらは、カニクイザルの皮膚からiPS細胞を作り、視細胞に栄養分などを補給する「網膜色素上皮細胞」に変化させ、縦1ミリ、横2ミリの細胞シートを作製し、サルの網膜の裏に移植することに成功している。


ライター:Kaori Shimada
2011.04.28 執筆
http://www.cellseed.com/index.html
( 株式会社セルシード )