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Products (医学・創薬)

iPS細胞 [人工多能性幹細胞(じんこうたのうせいかんさいぼう、Induced pluripotent stem cells)]


概要

定義
iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、非常に多様な細胞に分化できる分化全能性 (pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞をいう。このiPS細胞に関する研究は、再生医学にとって最も重要な研究と位置づけられ、世界が凌ぎを削っていたが、2006年、京都大学の山中伸弥教授らのグループによって、世界で初めてマウスの線維芽細胞から作られた細胞である。

この時点では、ウイルスの一種を運び屋にして遺伝子を細胞に導入してiPS細胞を作製しており、ウイルスが遺伝子を細胞の染色体に入り込ませるため、もとからある遺伝子を傷つけてがん化させる危険性があった。またこのiPS細胞の制作効率も大変低いもので、体細胞10万個あたり、0~2個であった。

しかし、前述の山中教授と沖田圭介講師は、染色体を傷つけず、細胞内で短期間に分解される「プラスミド」というリング状のDNAに、四つの遺伝子を運ばせて、iPS細胞を作る手法を開発し、がん化の危険性を軽減した。さらに従来の約30倍の効率で、性制作もできるという。2011/04/04付のネイチャー・メソッド電子版で発表した。


背景
ではこのiPS細胞、私たちにとって、どのようなメリットをもたらしてくれるのか?
まずは再生医療のメリットを考えてみたい。


通常、多細胞生物は、個体、器官、組織、細胞、というようにそれぞれが構成単位から形成されている。例えばヒトは、成人では60兆個もの細胞から構成されているという。そして、その60兆個の細胞は、神経細胞、ヘルパーT細胞、骨芽細胞・・・など、200種類もの違ったタイプに分類する事ができる。ヒトのこれらの細胞は、タイプが違うとその機能も異なるのは当然で、違うタイプの細胞の代わりを果たすことはできない。またタイプの違いの壁をこえて他のタイプの細胞に姿をかえることもできない。

そこで、ある臓器の一部を損傷したり、機能不全を起こした場合には、生体間移植や人工臓器を体内に埋め込むといった治療方法が従来よりなされていた。
しかし、これらの方法では、立ちいかなくなるのは当然である。すなわちドナーの数がきわめて限られていること、自分以外の他人の細胞・臓器では拒絶反応を引き起こすこと、実際の生体臓器ほど精巧な人工臓器の作成ができていないこと等、今なお課題が多いのである。

そこで、今注目されているのが、これまでの医療を根本的に変革する可能性を有する再生医療である。すなわち人工的に培養した細胞や組織を用いて、病気やけがなどによって失われた臓器や組織を修復・再生するのである。


iPS細胞ができるまで
従来の医療にくらべると格段に多くのメリットをもたらしてくれる再生医療。その中でもiPS細胞が最重要とされるのはなぜか?

日本の再生医療研究を振り返ってみよう。

日本再生医療研究は、政府方針として倫理上の厳しい規制がある中、京都大学の中辻憲夫教授が最初に、受精した胚からヒトES細胞の株の作成方法を樹立(2003年)するとともに、ヒトES細胞株の分配体制を確立した。
このES細胞(胚性幹細胞Embryonic stem cells)とは、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株のことである。さまざまな細胞に分化が可能であるため、医療への応用が期待されていたが、ここでもやはり拒絶反応の問題やヒト胚を壊さなければならないという倫理上の問題があり、実現は難しいと思われる。

そこで登場したのが、iPS細胞であり、山中教授のグループでは、マウスの線維芽細胞に4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4,c-Myc)をレトロウイルスベクターで導入することによりマウスES細胞に類似した人工多能性幹細胞を作出することに成功し、さらに、同じ4因子を用いて成人皮膚由来の線維芽細胞からヒトES細胞に類似したiPS細胞を樹立することにも成功した。

生命の萌芽である胚を破壊するという倫理的問題や移植後の拒絶反応の懸念が少なく細胞移植療法の資源として期待される。さらにヒトiPS細胞は薬剤の安全性評価などに利用できるなど様々な方面での応用も期待される。

山中教授のグループでは、遺伝性あるいは原因不明の難治性疾患に悩まされている患者由来の疾患特異的iPS細胞を樹立し、今までは入手困難であった組織に分化させて in vitro系での病態解明を推進している。加えて、疾患特異的iPS細胞を用いての薬剤探索研究にも着手し、新たな治療法や新薬の開発が期待される。

尚、この分野では世界が鎬を削る激しい競争をしており、日本がこの研究で名実ともに世界のリーダーとなるためには、資金と環境が充分に満たされなければならない。それが絶対必要条件である。

2011年現在、iPS細胞研究分野では、世界レベルで特許申請競争が激しくなっている。
山中伸也京都大学教授が開発したiPS細胞の特許は、2011年1月にアメリカの企業から京都大学に譲渡された。2011年8月には欧州特許庁へも登録される。
京都大学は英独仏など主要欧州17か国において、特許登録をする予定である。

この特許は、今後発見されるものでも構造が似通っておれば、類似因子(ファミリー)として認められる内容となっている。 今後も、学問の進歩と新技術の開発により、益々特許競争が激しくなるであろう。


ライター:Kaori Shimada
2011.05.16 執筆、2011.08.02 追記
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/index.html
(京都大学iPS細胞研究所/CiRA)